CEOとCEO以外の違いphoto AC

「経営観は、人生観・世界観とともにリベラルアーツ(自由に生きる技術)を形成する、われわれ人間が確立すべき概念である。経営観を確立することができれば、自身の心に強固な羅針盤が育まれ、一切針路に惑い見失うことなく、人生や経営を全うすることが可能になる」。書籍『最高経営責任者(CEO)の経営観』の著者、株式会社TS&Co.創業者兼代表取締役最高経営責任者(CEO)の澤 拓磨氏はそう語る。本書は著者が考える経営観の解説とその実践についてまとめた一冊だ。

未来への自由と責任を享受しているか否か

 ここでは、CEOとCEO以外を対比することで、最高経営責任者(CEO)とは何かについて理解を深めていく。

 ここでいう「CEO以外」とは、取締役会議長、取締役、相談役、会長、COO、CSO、CFO、社長室、経営企画、社外取締役、経営コンサルタントなどを指している。特定の専門性や過去の実績・功労を背景に、CEOが描く未来像と描いた未来像へステークホルダーを約束した結果に引き上げる行動に対して、社内外から、助言・併走・協働する役割を担う。

 CEOとCEO以外の違いは、未来への自由と責任を享受しているか否かである(※)。

※取締役会議長が未来への自由と責任の一部を享受しているケースもある。過去に執行役として実績や功労のあった社内取締役の序列トップと考えられる前CEO、コーポレート・ガバナンスの観点から取締役会議長の役割を担うことが妥当と考えられる社外取締役が、取締役会の議事選定・進行やコーポレート・ガバナンス・システムの運用をリードする監督機能プラスアルファの機能を担うわけだ。

 そしてCEOは、ラストパーソン(自分の後ろにはもう誰もいない最終責任者)となることが求められる。ラストパーソンであるからには、責任に押しつぶされないどころか責任を楽しめること、責任があるがゆえに潜在能力を存分に発揮できることが求められる。39個のグランドスラム・タイトルを持つテニス界のレジェンド、ビリー・ジーン・キング夫人は、現役時代、常勝を期待され続けた。「プレッシャーは特権である」とは、彼女のあまりにも有名な言葉である。

 また、CEOには“Chief  Everything Officer”、“総合格闘家”、“総合芸術家”たる覚悟が求められるため、賭けたコストとリスクを上回るリターンが得られると確信・勇気・信念を持っていることも重要である(なお、CEOを志すのは割に合わないと結論するのも、1つの英断ではあろう。未来への自由と責任を享受するに足る専門性を身に付け実践したとしても、得られるリターンが自分の期待を上回るか否かは、未来の不確実性との戦いに勝利し続けなければならないのだから)。

 従って、CEOはしばしば経営全般にわたる高い専門性を有しているものだが、仮に、特定領域、あるいは経営全般において、CEOより優れた専門性を持つCEO以外の人材がいたとしても、ラストパーソンにふさわしい適性や、コストとリスクを上回るリターンが得られる確信、勇気、信念がなかりせば、CEOの責務を全うすることは難しい。