自身のアイデンティティを深く自覚する
CEOを志しているものの、日本企業に対する要請が高まり続けるコーポレート・ガバナンス(※)の担い手として供給が追いつかないため、社外取締役への就任やCFOへの就任を検討する人材が多い。キャリア相談を受ける際には、この点でCEOとCEO以外に大きな違いがあることを伝えている。
※2015年3月5日に金融庁と東京証券取引所が共同で「コーポレート・ガバナンス・コード原案」(上場会社などにおける社外取締役の選任実質義務化など)を公表して以来、2018年6月にCEOの選解任に関する記述を客観的に分かりやすくすること、企業を構成する人材の多様性確保という観点から女性や外国人などを取締役などの監督側のみに任用するのではなく執行側においても任用することなどを求める1度目の改訂、2021年6月に企業の持続的成長を促すために「人的資本」に関する情報開示項目などを追加した2度目の改訂がなされるなど、コーポレート・ガバナンス改革の要請が高まり続けている。
また、副次的な違いとして、CEOには「全原因を創造する」在り方や高水準の未来像を描く力・決断力などが求められるため、結果を出したCEOにはCEO以外を大きく上回る報酬が還元されることも確認しておこう。
読者の中でCEOを志す方は、ぜひ自身のアイデンティティを深く自覚するよう推奨したい。素直な心で自分と向き合い、CEOを志すべきかどうか、自問自答してほしい。
これは好き嫌いや向き不向きであって、決して優劣の話ではない。例えば、明治から大正にかけて活躍した日本の2人の実業家、岩崎彌太郎と渋沢栄一はどうだったか。
岩崎は三菱財閥の創業者で、自ら経営に主体的にかかわりながら、日本を代表する企業グループの礎を築いた。一方の渋沢は生涯に500社を立ち上げ、「日本資本主義の父」との異名をもつが、経営そのものに主体的にかかわった風はない。経営に主体的にかかわるか否かに対する解は、両者のアイデンティティに起因するものと考えられる。後年に生きるわれわれは、2人の業績や人物評価にどう優劣をつけられようか。個々人の好き嫌いに委ねられないだろうか。
個々人が自身を知り、社会において最も輝ける役割を生きがいとして担っていくことこそ、より良い人生をもたらし、平和で持続的に繫栄するレジリエントでサステナブルな社会の実現へとつながるのである。ただし、人間は誰もが自分の人生のCEOである。この点は、改めて強調しておきたい。