森林は「インターネット」であり、菌類がつくる「巨大な脳」だった──。樹木たちの「会話」を可能にする「地中の菌類ネットワーク」を解明した『マザーツリー 森に隠された「知性」をめぐる冒険』がいよいよ日本でも発売される。
発売直後から世界で大きな話題を呼び、早くも映画化も決定しているという同書だが、日本国内でも養老孟司氏(解剖学者)、隈研吾氏(建築家)や斎藤幸平氏(哲学者)など、第一人者から推薦の声が多数集まっているという。本書の発刊を記念して、本文の一部を特別に公開する。
科学的エビデンスに裏づけられた「森の真なる姿」
木々はまもなく、驚くような秘密を明かしてくれた。
木々は互いに網の目のような相互依存関係のなかに存在し、地下に広がるシステムを通じてつながり合っているということを私は発見したのだ。
木々はそこで、もはやその存在は否定しようのない、太古からの複雑さと智慧をもってつながり合い、関係をつくるのである。
私は何百という実験を行い、次から次へと新しい発見をし、そのなかで、木と木のコミュニケーションについて、森という社会を形づくる関係性について明らかにした。
その科学的エビデンスは初めのうちこそ大いに物議を醸したが、いまではそれは正確であることが認知され、査読を経たうえで広く学術誌に掲載されている。これはおとぎ話でも、単なる想像でも、魔法の一角獣でも、ハリウッド映画のつくり話でもない。
森は大きな「脳」である──地下に隠された「菌類のネットワーク」
その最初の手掛かりの一つは、木々が地中に張り巡らされた菌類のネットワークを通じて交わし合っている、暗号めいたメッセージを盗み聞きしているときに訪れた。
この秘密の会話の経路を辿っていくうちに、このネットワークは林床全体に広がっており、拠点となるさまざまな木や菌同士のつながりが存在していることがわかったのだ。
粗削りながらそれを地図にしてみると、驚いたことに、いちばん大きくて古い木は、苗木を再生させる菌同士のつながりの源であることが明らかになった。
しかもそうした木々は、若いものから年寄りまで、周りのすべてのものとつながり、さまざまなスレッドやシナプスやノードの複雑な絡まり合いにおける中心点の役割を果たしているのである。
こうした構図のなかでも何より衝撃的な一面──このネットワークには、私たち人間の脳と共通点があるという事実──が明らかになった過程をご紹介しよう。
森のネットワークでは、古いものと若いものが、化学信号を発することによって互いを認識し、情報をやり取りし、反応し合っている。
それは私たち人間の神経伝達物質と同じ化学物質であり、イオンがつくる信号が菌類の被膜を通して伝わるのである。
(本原稿は、スザンヌ・シマード著『マザーツリー』を抜粋・編集したものです)