地球誕生から何十億年もの間、この星はあまりにも過酷だった。激しく波立つ海、火山の噴火、大気の絶えまない変化。生命はあらゆる困難に直面しながら絶滅と進化を繰り返した。ホモ・サピエンスの拡散に至るまで生命はしぶとく生き続けてきた。「地球の誕生」から「サピエンスの絶滅、生命の絶滅」まで全歴史を一冊に凝縮した『超圧縮 地球生物全史』は、その奇跡の物語を描き出す。生命38億年の歴史を超圧縮したサイエンス書として、ジャレド・ダイアモンド(『銃・病原菌・鉄』著者)から「著者は万華鏡のように変化する生命のあり方をエキサイティングに描きだす。全人類が楽しめる本だ!」など、世界の第一人者から推薦されている。本書の発刊を記念して、内容の一部を特別に公開する。

“宇宙空間”でも“核廃棄物”のなかでさえ生き延びる…「地球上でもっとも洗練された生命体」とは?Photo: Adobe Stock

洗練された生命体

 地球の物語では、はじめの二〇億年のあいだ、もっとも洗練された生命体は、細菌(バクテリア)の細胞だった。

 バクテリアの細胞は、単体だろうと、シート状につながって海底を覆っていようと、シアノバクテリアの天使の毛のような長い繊維状だろうと、とにかく単純そのもの。

 一つひとつは小さく、ウッドストックでお祭り騒ぎする人たちと同じくらいの数のバクテリアが、ピンの頭に余裕で収まるほどだ。

驚きの適応力

 顕微鏡で見ると、バクテリアの細胞は単純で特徴がない。

 でも、この単純さにごまかされてはいけない。

 その習性や生息場所の点から見ると、バクテリアは非常に適応力に優れている。

どこにでも住む

 ほとんど、どこにだって住むことができるのだ。

 人間の体のなか(や体の上)にいるバクテリア細胞の数は、その人間の細胞の数よりもはるかに多い。

 重い病気を引き起こすバクテリアもあるけれど、私たちは自分の腸内に住み、腸内環境を整えてくれるバクテリアの助けなしには生きていかれない。

核廃棄物のなかにも…

 また、人間の体内は酸度や温度の変化が大きいにもかかわらず、バクテリアからすれば穏やかな場所だ。

 沸騰したヤカンの温度を、うららかな春の陽気のように感じるバクテリアもいる。

 原油や、人間に癌を引き起こす溶剤、さらには核廃棄物のなかでさえ繁殖するバクテリアもいる。

宇宙空間でも…

 真空の宇宙空間や、過酷なまでに極端な温度や圧力でも生き残り、塩の粒のなかに閉じ込められて何百万年も生き延びるバクテリアもいる。

 バクテリアの細胞は小さいものの、群生することが知られている。

 異なる種類のバクテリアが集まって化学物質を交換するのだ。

 ある種のバクテリアの排泄物が、別の種のバクテリアの餌となることもある。

 前にも触れたように、地球にはじめてあらわれた、目に見える生命のしるしであるストロマトライトは、さまざまな種類のバクテリアのコロニーだった。

遺伝子の一部を互いに交換

 バクテリアは、自分の遺伝子の一部を互いに交換することさえできる。

 今日、バクテリアが抗生物質への耐性を進化させるのは、この簡単な物々交換のおかげだ。

 あるバクテリアが特定の抗生物質への耐性遺伝子を持っていなくても、同じ環境にいるほかの連中の遺伝子から自由に手に入れることができる。

 こうした、異なる種とコミュニティを形成するバクテリアの特性が、次の大きな進化上の革新へとつながった。バクテリアは集団生活を次の段階へおしすすめた。

 それは核を持つ細胞だった。

(本原稿は、ヘンリー・ジー著『超圧縮 地球生物全史』〈竹内薫訳〉からの抜粋です)