地球誕生から何十億年もの間、この星はあまりにも過酷だった。激しく波立つ海、火山の噴火、大気の絶えまない変化。生命はあらゆる困難に直面しながら絶滅と進化を繰り返した。ホモ・サピエンスの拡散に至るまで生命はしぶとく生き続けてきた。「地球の誕生」から「サピエンスの絶滅、生命の絶滅」まで全歴史を一冊に凝縮した『超圧縮 地球生物全史』は、その奇跡の物語を描き出す。生命38億年の歴史を超圧縮したサイエンス書として、ジャレド・ダイアモンド(『銃・病原菌・鉄』著者)から「著者は万華鏡のように変化する生命のあり方をエキサイティングに描きだす。全人類が楽しめる本だ!」など、世界の第一人者から推薦されている。本書の発刊を記念して、内容の一部を特別に公開する。

地球上の生命の始まりは「丸い泡のようなもの」だった…その驚くべき結論Photo: Adobe Stock

生命の誕生

 騒乱と災害のさなかに生命が誕生した。生命を養い、育み、発展させ、成長させたのは、まさに騒乱と災害なのだった。海のもっとも奥深く、地殻プレートの境目が地殻へめりこんだ場所。

 そして、海底の割れ目から、ミネラルを豊富に含んだ高温の水が、超高圧で迸る場所。

 そんなところで生命は進化したという説が有力だ。

膜の内部と外側

 最古の生き物は、岩のあいだの微細な隙間にかぶさる汚い薄膜にすぎなかった。わきあがる海流がとぐろを巻き、乱れて大渦になり、エネルギーを失う。

 すると、流れとともに運ばれてきた、ミネラルを豊富に含んだ残滓が、岩石の隙間や気孔に取り残され、薄膜が形づくられていった。

 このような膜は不完全で、「ふるい」みたいに、通過させる物質とさせない物質があった。穴がたくさんあいた多孔質であるにもかかわらず、膜の内部の環境は、外側の荒れ狂う大渦巻とは異なり、もっと穏やかで秩序のあるものになった。

 屋根と壁のあるログハウスは、たとえドアがバタンバタン閉まり、窓がガタガタ音をたてたとしても、外の極寒の吹きさらしに比べれば安全なのだ。

 膜に漏れやすい穴があることも功を奏した。エネルギーや栄養素が穴から入ってくる一方、老廃物は穴から外に出してしまえばよかったから。

丸い泡のような…

 外の世界の化学物質の喧騒から守られた小さな水たまりは、秩序のある避難所だった。薄膜は、ゆっくりとエネルギーの生成に磨きをかけ、そのエネルギーを使って、丸い泡のような形になった。

 最初は偶然だったが、次第に泡が増えはじめた。泡の内部に化学的な鋳型がつくられ、新しい世代の泡がその姿をコピーして、ひきついでいくようになった。

 新しい世代の泡は、多かれ少なかれ、親の忠実なコピーとなった。効率の良い泡が、秩序のない泡を駆逐して繁栄するようになった。

「生命の本質」とは

 この単純な泡たちは、生命の入り口に立ち、その場しのぎとはいえ、多大な努力をはらって、宇宙の無秩序さ、すなわちエントロピーの増大を食い止める方法を見つけた。

 これこそが生命の本質。石鹼の泡のような細胞が、ちっちゃな握りこぶしをふりかざし、生命のない世界に立ち向かったのだ。

(本原稿は、ヘンリー・ジー著『超圧縮 地球生物全史』〈竹内薫訳〉からの抜粋です)