【30代後半のリーダーが共感!】「真面目でいい人」が仕事を頑張っても評価されないワケ

仕事に必要なスキルやノウハウはあるのに、なかなか結果を出せない。
真面目にコツコツ成果を上げても、望んでいるような評価を得られない。
会社のなかでは、多くの人がこのような悩みを抱えている。このような問題を解決する上で欠かすことができないのは、組織で働くうえで避けることのできない「人間心理」と「組織力学」に対する深い洞察力。そう話すのは、4000人超の現場リーダーをサポートしてきたコンサルタントの石川明さんだ。
石川さんの新刊『Deep Skill ディープ・スキル』では、
「上司とは“はしご”を外す存在である」
「部署間対立は避けられない」
「権力がなければ変革はできない」
といった身も蓋もない「組織の現実」を深く洞察しつつ、
人と組織を巧みに動かす「ヒューマン・スキル」=「ディープ・スキル」について解説。
「正論を主張しても誰も動いてくれないのはそういうことだったのか」
「人一倍頑張っている自分より他の人が評価される理由がわかった」

という感想が多く寄せられるベストセラーとなっている。
そこで今回、真面目でいい人が仕事を頑張るだけでは評価されないのはなぜか、石川さんに語ってもらった。(取材・構成/樺山美夏、撮影/榊智朗)

人と組織の動かし方を知らない真面目な人が多すぎる

――石川さんはリクルート時代も独立した後も、新規事業創出のサポートに長く携わっています。今回の新刊では、あえて新規事業のつくりかたには触れず、人や組織を深く洞察することの重要性を伝えたいと思われたのはなぜでしょうか。

石川明さん(以下、石川) 私の主な仕事は、何かを起案したい人の横についてサポートすることです。対象となるのは、課長一歩手前くらいの現場リーダーがメイン。部下と一緒に起案することもあれば、自分だけで起案することもある立場の人ですね。

 ところがいざそのアイデアを上に通したり、実際に事業を動かそうとすると、さまざまな壁にぶつかったり抵抗にあったりして頓挫してしまうことが多い。そのたびに、「人や組織をもっとうまく動かせるように配慮すればいいのに」と思うんですね。“真面目ないい人”が頑張ってもなかなか評価されず、組織の中で悩み苦しんでいる様子を見るのは本当に辛いです。

 そういうケースが年々増えているので、なんとか力になりたいという気持ちが強くなったのが、この本を書こうと思った大きな理由です。新規事業に限らず、既存事業の改革や業務改善など優れたアイデアを起案できる人は、この10年で間違いなく増えていますから。

単なる「真面目ないい人」は“使われる”だけ

――この本の読者が人と組織を動かせるようになれば、結果的に企業の問題解決にもつながっていきますよね。

石川 そうなんです。新しいことをやっていかなきゃいけない、既存事業やシステムを変えていかなければいけない、という問題意識は多くの企業で高まっています。

 でも、仮にこのまま何もしなければ衰退するとわかっていたとしても、伝統や過去の成功体験に縛られて、変わりたくても変われない組織が大半なんですね。そういう職場環境でも人と組織を動かしていくためには、人間心理や組織力学に対する“深い洞察力”が不可欠。そして、そうした洞察に基づいたヒューマン・スキルを磨く必要があります。そのヒューマン・スキルを「ディープ・スキル」と名づけて、厳選した「21の技術」を本書で伝えたわけです。

「21のスキル、全部は持てません」という感想もいただきますが、人それぞれタイプが異なりますから、「3つか4つは得意なスキルがある」「自分にもできそうなものがいくつかある」と思えればいいと思っています。

 また、組織で仕事をするうえでは、人や組織を動かす「ディープ・スキル」というレイヤーが決定的に重要だという認識をもつだけでも、実際に仕事を進める際の「目の付けどころ」が変わってくると思います。

【30代後半のリーダーが共感!】「真面目でいい人」が仕事を頑張っても評価されないワケ

――表紙の帯に、「ずるさ」ではなく「したたかさ」を磨け! とあります。「したたか(強か)」とは粘り強くしっかりしているという意味ですが、本書に登場する仕事ができる人たちは、みなさんいい人ばかりですね。

石川 基本的に性格が悪い人とは誰も仕事したくないですよね。周りから信頼されているいい人でなければ、人や組織は動かせません。信頼を得るためには、礼儀正しく、約束やルールを守り、嘘をつかず誠実でいる、といった当たり前のことが大事で、そういう「いい人」であることはきわめて重要なことです。

 ただし、単なるいい人だと相手に舐められて都合良く使われてしまう可能性がある。だから、したたかさも必要なのです。「いい人+したたか」であるとはどういうことかについてはの中に具体的に書いていますので、ぜひ読んでみてほしいですね。

 この部分に特に共感してくださったのは、30代後半ぐらいの現場リーダーの読者です。「自分としてはそれなりにいい案を考えて、組織の中で正しく動いているつもりだったけど、この本に書いてある一歩深いところまではやっていなかった。今後はもっとよく考えて動きたい」といった感想が目立ちますね。

――帯にある「正論を主張しても組織は1ミリたりとも動かない」という言葉に共感する読者も多いそうですね。実際、相性の悪い上司などが壁となって、正論が通らない経験をしている人は多いように思います。そうした現実に向き合ううえでの基本として、本書で紹介されている「RPG思考」の話は非常に腹落ち感がありました。

石川 あれは、大事なポイントですね。私は、仕事はロール・プレイング・ゲーム(RPG)のようなものだと考えています。相性の悪い上司のことをとやかく言っても何も生まれません。それよりも、相手のキャラクターに合わせた攻略法でクリアしていくゲームだと思えば、試行錯誤するのも楽しくなりますよね。そのマインドセットをすることが、ディープ・スキルを発揮する前提ではないかと思うんです。

 たとえば、エビデンスにこだわる上司には、データをそろえて見せる。真正面からアプローチするのが難しい相手なら、その人が可愛がっている部下にまず理解してもらう。ゴルフなどの趣味で共通の話題があれば、そこから入って距離を縮める。

 そのように、相手の考え方や価値観に合わせた“持ち札”をいろいろ持っていたほうが、ゲームは攻略しやすくなります。営業経験がある人は、顧客相手にそういうことをやっているのに、社内ではなぜかやらなくなるんですよ。でも、上司や社内の人も自分のお客様だと思えば、接し方がまったく変わります。社内の人々と向き合うスタンスを変えることで、RPG思考が動き出して、難局ですら楽しめるようになるんです。

 ただし、本書で伝えたディープ・スキルが、自分の成功のためだけの技術だという考え方をしたら本末転倒です。大前提としてこれは“自分も相手も気持ち良く仕事するための術”であって、結果はその後ついてくるのです。