上司は保身をはかるために“はしご”を外す

――素晴らしい新規事業を立案して“時の人”になった課長が、取締役にはしごを外されて四面楚歌になった話が本書に出てきます。自分が当事者だったらと思うとゾッとしますが、ああいうケースはめずらしくないんですか?

石川 結構ありますね。上司たるもの、部下のはしごを外すべきではない、優れたアイデアなのにはしごを外すなんてありえない、と思っている人もいるかもしれません。でも、外す人は外しますから。

 どんなに素晴らしい事業企画のアイデアでも、最初から最後まで絶賛されて実行にいたるケースはめったにありません。最初は起案した部下をベタ褒めしていても、社内の風向きを見ながら雲行きが怪しくなってくると、保身をはかるためにさっと逃げちゃう上司はよくいるのです。

 このとき、はしごを外された側がクソ! と思うのは仕方ありません。実際、そういう目に遭った人の相談を受けると、上司に対する怒りをにじませています。

 でも、自分の案件が最後まで通らなかったのは何が原因だったのか、冷静に考える必要があるんですね。どんなに感情的になっても不満があっても、その上司が上司であることに変わりはないわけですから。

 そして、「上司たるもの、部下のはしごを外すべきではない」といった正論、あるいは理想論で考えるのではなく、「上司は、ときにはしごを外す存在」「上司も保身をはかる」という身も蓋もない現実を見据えることです。その現実を踏まえたうえで、上司がはしごを外しにくい状況を生み出すために手を打つのが「ディープ・スキル」なんです。

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――まだ若くて優秀な人だったら、「こんな会社もうやっていけない」と愛想を尽かして転職する人もいるかもしれません。

石川 そうですね。会社や上司に幻滅して、転職を考える人は多いです。自分から何かを起案できる人は、それなりに社内でも認められ、会社からも期待されているわけです。それだけに、自分の案件がなかなか通らないと強気になって、「じゃあもう辞めます」となってしまうんですね。

 会社としては優秀な人に辞められたくないでしょうけど、上司のなかには、自分が責任を取らないですむなら、部下が転職しようがどうしようが、どうでもいいと考える人だっているのが現実です。

――私は脱サラ組なので、組織ってやっぱり面倒だな、辞めてよかったなと思ってしまいました(笑)。

石川 そういう感想もありますよ(笑)。でも「おわりに」にも書いたように、どんな規模の組織でも、そこに人がいる限り複雑な「人間心理」や「組織力学」が存在することに変わりはないんですよね。

 大企業はしがらみが多いから、小さな会社に行きたいっていう人もいますけど、組織が小さいほうが1人1人の個が際立つので、より難しくなる可能性があります。仮に5人だけの会社で、誰か1人と気が合わなくなったら、相当やりにくいと思いますよ。

――たしかにそうですね。

石川 あるいは、フリーランスになったとしても、取引先の「組織力学」や先方の担当者の「人間心理」の問題からは逃げられません。人間社会で生きていくためには、これは避けられない問題なんです。

 スキルやノウハウを身につけることにはみなさん熱心ですが、自分と関わりがある人たちとうまくやっていけなければ、それらを生かすことはできません。

 だから、もちろん転職を否定するわけではありませんが、その前に、もう一度、自分にはディープ・スキルが欠けているのではないか、と自問自答することには意味があるでしょう。そうでなければ、転職先で“同じ問題”にぶつかる可能性が高いように思うのです。

 実際、会社に限らず、地域のPTAやマンションの理事会だって同じです。私は、子どもの学校のPTAをやっていたことがあるんですが、この本に書いたディープ・スキルは会社以外の組織でも有効でしたよ。ディープ・スキルは、世の中を上手に生きていくうえで欠かせないものだと思うのです。

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