終電ギリギリまで残業しているのに仕事が終わらない人と、必ず定時で帰るのに成績No.1の人。この差はいったい何だろう? 努力が成果に反映されない根本的な原因はどこにあるのだろうか? そんなビジネスパーソンの悩みを本質的に解決してくれるのが大注目の新刊『時間最短化、成果最大化の法則──1日1話インストールする“できる人”の思考アルゴリズム』だ。
著者は、東洋経済オンライン「市場が評価した経営者ランキング2019」第1位、フォーブス アジア「アジアの優良中小企業ベスト200」4度受賞の北の達人コーポレーション(東証プライム上場)社長木下勝寿氏だ。本書 の発売を記念し、ビジネスパーソン「あるある」全20の悩みをぶつける特別企画がスタート。経営の最前線で20年以上、成果を上げられる人と上げられない人の差を徹底研究してきた木下社長にロングインタビューを実施。第10回目は、「他人の感情にふりまわされない方法」について、教えてもらった。(構成・川代紗生)

人間関係の悩みを根本解決する「好き嫌いは7:3の法則」とは?

部下からの好感度を気にしなくなった2つの理由

──管理職になると、部下の反発を受ける場面もありますよね。

 指示を出さなければいけないのに、部下の目を気にして強く言えない、という人も多いと思います。

 どうすれば、人の感情にふりまわされなくなるでしょうか?

 木下さんは、部下からの好感度は気にしませんか?

木下勝寿(以下、木下):以前は、気にしていたこともありましたが、今はほとんどふりまわされなくなりました。そう思えるようになったのは、2つの大事なことに気がついたからです。

 1つ目は、プロの管理職は部下から好感度を得ようとしてはならない、ということ。
 2つ目は、「好き嫌いは7:3の法則」があること。

婆の愛より、母の愛

──まず、1つ目の、「部下から好感度を得ようとしてはならない」ってどういうことですか?「他人に好かれること」は、仕事に結構影響しませんか?

木下:もちろん、仕事を進めるうえでお客様や取引先からは好感度を持ってもらうべきです。
 しかし、身内である部下からの好感度を高くすることが必ずしもプラスとはいえません。

──部下から好感度を高く持たれるのはプラスではないんですか?

木下:好感度が高いことが悪いのではなく、好感度を上げようとすることがよくない場合があるということです。

「婆の愛より、母の愛」という言葉があります。

 子どもがおやつやお金をほしがった際に、祖母は孫に好かれたくてあげてしまったりしますが、母親はその子どもにとって、今おやつやお金をあげることが長期的によいことかどうかを考え、あげなかったりします。

 そういった場合、子どもはお婆さんになつき、お母さんに「ケチ」と悪態をつくかもしれませんが、本当にその子どものことを考えているのは母親です。

──たしかに(笑)。でも、子どもの立場だったら、そのときはそういう母親の気持ちはわからないですよね?

木下:そうなんです。だからプロの管理職は、部下に対しては「今はわかってもらえなくても、きっと10年後にわかってくれるはず」と信じて指導すべきです。

 なので今、好感度を高めることより、部下にとって最適の指導育成ができる関係性をつくるべきなのです。

 もちろん、反感を持たれるレベルになると組織が機能しなくなりますが、そうならない範囲で時には嫌われても組織のため、部下のために悪役を担わなければいけない役割なのです。

 それなのに、部下から好感度を得ようとしているのは、「好かれたい」という管理職のエゴだったりするのです。

──でも、部下に慕われるような、面倒見がよくて頼りになる管理職に憧れている人も多いと思うのですが。

木下:もちろん、面倒見がよくて頼りになる存在を目指すのは問題ありません。

 しかし、注意しなくてはならないのは、「好かれたい」という下心は必ず見透かされる、ということ。

 上司の態度を、部下はかなりシビアに見ているものです。

 管理職になりたての人にありがちなのが、意見を聞いてばかりで仕事の管理がきちんとできず、部下に迎合していくケースです。

 そんな上司に対して部下は、

「僕らにいい顔してくれるし、すごくやさしいんだけど、あの人の下でずっと働いていたら成長できないよね」

 と内心、思っているわけです。

──最近、職場がホワイトすぎて成長できそうにないので転職するという若者も増えてきているようですね。

木下:もちろん昭和のブラック体質は撲滅すべきですが、ゆるすぎると「もっと成長できるところに行こう」と、優秀な社員が異動希望を出したり、転職したりするのもよくあることです。

 逆に、「無愛想で話もきちんと聞いてくれないけれど、あの人の下にいたら成長できる」と思われる人のほうに、成長意欲の高い優秀な人材が集まったりするものです。

 よって、好感度を気にせずにズバズバと指導していく管理職のほうが結果的には好感度が高まったりするものなのです。

「好き嫌いは7:3の法則」で、
もう人間関係で悩まない!

木下:私も以前、ある人に大変嫌われていたことがありました。

「なぜ彼に嫌われるのか」
「どうしたら嫌われなくなるのか」

 と考えながら、必死で改善策を探していました。

 それを繰り返していたとき、ふと、彼に嫌われないよう行動していたことで、周囲の信用を失っていたことに気がついたのです。

 私の姿はある人には「媚びている」ように見え、ある人には「信念を持っていない」ように映っていました。

 一部の人の「嫌い」を減らそうとすると、「好き」の総量は減っていくものなんです。

──それだと、本末転倒ですよね。

木下:2つ目の理由として挙げましたが、私は人間関係において、「好き嫌いは7:3の法則」を常に意識しています。

──『時間最短化、成果最大化の法則』でも紹介されていましたが、初めて耳にする読者も多いと思います。具体的にはどういうことでしょうか?

木下:どんなにいい人でも、一部の人には必ず嫌われます。

 もし、世界に10人しか存在しないとしたら、その10人の自分に対する感情は、次のいずれかになります。

 1. 7人は「まあまあ好き」、3人は「まあまあ嫌い」
 2. 9人は「まあまあ好き」、1人は「すごく嫌い」
 3. 1人は「めちゃくちゃすごく好き」、9人は「まあまあ嫌い」
 4. 3人は「すごく好き」、5人は「興味がない」、2人は「すごく嫌い」

 つまり、「好き」の「人数×強さ」と「嫌い」の「人数×強さ」は、だいたい7:3の割合になるんです。

──この分類分け、すごくしっくりきます。

 単純な「人数」で区別するのではなく、「人数×強さ」として定義しているのがすごいですよね!

木下:他人から自分に向けられるパワーの7割は「好き」のパワーで、残りの3割が「嫌い」のパワーです。このバランスはほとんど崩れません。

 人によっては、3割の「嫌い」のパワーを下げる努力をしますが、基本的に「7:3」なので、「嫌い」のパワーを3分の1に下げると、「好き」のパワーも3分の1に下がってしまうんです。

 かつて、私が空回りしてしまったのも、そういう理屈だと思います。

──芸能界の国民的スターでも、「2」に当てはまる人、多いですよね。

「みんなは好きっていうけど、私はあの人嫌い!」という人がポツポツいますし。

木下:好感度を気にするのは悪いことではありませんが、どんなに人気者に見える人でも、「好き嫌いは7:3の法則」を崩すのは簡単ではありません。

 だったら、その他人にどう思われているかなんて気にせずに、自分の感情で「楽しいかどうか」をベースに生きていくほうがいいですよね。

(本稿は、『時間最短化、成果最大化の法則』に掲載されたものをベースに、本には掲載できなかったノウハウを著者インタビューをもとに再構成したものです)