終電ギリギリまで残業しているのに仕事が終わらない人と、必ず定時で帰るのに成績No.1の人。この差はいったい何だろう? 努力が成果に反映されない根本的な原因はどこにあるのだろうか? そんなビジネスパーソンの悩みを本質的に解決してくれるのが注目の新刊『時間最短化、成果最大化の法則──1日1話インストールする“できる人”の思考アルゴリズム』だ。著者は、東洋経済オンライン「市場が評価した経営者ランキング2019」第1位、フォーブス アジア「アジアの優良中小企業ベスト200」4度受賞の北の達人コーポレーション(東証プライム上場)の木下勝寿社長だ。先日、本書の出版を記念し、ビジネスパーソン「あるある」全20の悩みをぶつける特別企画がスタートした。経営の最前線で20年以上、成果を上げられる人と上げられない人の差を徹底研究してきた木下社長にロングインタビューを実施。第4回目は、「新入社員の可能性をつぶす上司の特徴」について、教えてもらった。(構成・川代紗生)

管理職が絶対言ってはいけない言葉【ワースト1】

プレイヤーとしては優秀でも管理職には向いていない人

──今、話題のベストセラーとなっている『時間最短化、成果最大化の法則』に、こんな言葉がありました。

“ある有名なコンサルティング会社が、ビジネスパーソンとして成功している人とそうでない人の違いを調査したところ、

社会人になった最初の上司がどんな人だったかということが最も影響している」
 という報告を発表した。”

 具体的には、上司のどんな言葉や態度が、新入社員の成長を妨げてしまうのでしょうか。

 最近は、「新卒なのに、リモートワークであまりにも叱られなさすぎて不安になり、厳しい会社に転職した」という話もよく聞きます。成長を促してくれる環境・そうでない環境を見極める方法があるといいなと思うのですが

木下:「無理」「現実的ではない」が口ぐせの人ですね。

 こう言う人は、プレイヤーとしてどれだけ優秀だったとしても、絶対に管理職にしちゃダメです。

 具体的には、どんな人がこの言葉を言いがちかというと、素養が非常に高く、努力をしなくても、なんでもそこそこできてしまう人です。

──器用なタイプの人ですね。

 なぜ、管理職に向いていないのでしょうか?

木下:もともと能力がすごく高い人は、意外と、本気で努力したことがなかったりするんです。

 自分の壁を打ち破るとか、「できないことができるようになる」ための努力を、人生で一度もしたことがない。

 そういう人は、若手社員の頃は活躍できても、自分の限界値にぶち当たると、ピタッと急に成長が止まることが多いです。

 学校でも、何も努力しなくてもいい成績がとれた。

 大学も、そこそこ勉強すればいい大学に入れた。

 仕事も、特に壁にぶち当たることもなく、言われたことをこなしていれば、それなりに結果を出せた。

 ところが、管理職となると、それまで求められていたものと全然違う成果を求められるようになる。

 プレーヤーとしてはトップクラスだった人も、ポジションが上がるにつれ、どんどん自分と同じレベルの人に囲まれるようになる。すると、ずっと「優秀な人」扱いされていたはずが、「普通の人」になってしまう。

 そのとき、1回も努力しないままなんとなく上がってこれた人は、限界を突破できないんです。

管理職の「無理」ラインが部署の上限になる

──仕事をしていて、現実的に本当に厳しい目標や案件にぶつかることもあります。

 そういうとき、どんな言葉がけをするのが「いい上司」だと思いますか?

木下:世の中で誰一人成し遂げていないようなことは、「無理」と言ってもいいでしょう。

 でも、世の中に1人でも成し遂げている人がいるなら、その人にとっては無理でも、人間にとっては無理ではない

「その上司にとっては無理」というだけの話で、新入社員はこれからどうなるかわからないのだから。

「無理」というのは、その上司を超えない前提で言ってしまっている言葉です。

──そうですね。上司が、自分の尺度で、新入社員の上限を決めてしまっている。

木下:だから、「難しい」とは言ってもいいと思います。

「それは難しい。でも、無理ではないよね」という具合に。

 その後、
「うまくいった前例がないか、調べてみたら?」
と言えるといいですね。

「本当にやったことがないのか」を、自社だけに限らず、他社の前例も調べ尽くして、人類史上まったくないこと以外は「無理」と言ったらダメだと思います。

──木下さんは、若手の人からかなり高めの目標や、突拍子もないアイデアを言われたとき、どう答えていますか?

木下:「自分にはできない」という言い方をします。

 たとえば以前、若い経営者に「1兆円企業をつくるためには、どうしたらいいですか?」と質問されたときは、「私は1兆円企業をつくったことはないし、今のところ私にできる気はしない。君が本当にやりたいんだったら、1兆円企業をつくった人に聞いてみては」と答えました。

──木下さんも、20代の頃、成功者に話を聞きまくったと、『時間最短化、成果最大化の法則』に書かれていましたよね。

木下:成し遂げたことがない人に聞いても意味がありません。

 逆にいえば、質問された側も、自分がその目標を成し遂げたことがないなら、簡単に「無理だ」と言い切ってしまうのはよくない。

 部下が「この商品を〇〇個売りたいんです!」と大きな目標を提示してきたら、
私の経験値では難しいと思うけど、〇〇個売れた事例を、調べてみたら?
 と導いてあげられるのが、いい上司だと思います。

 そこで、
〇〇個は無理だね
 とすぐに言い切る人が管理職をやっている部署は、絶対に伸びない

 管理職が「無理」だと思っているところが、その部署の上限になってしまうので。

最初の上司から刷り込まれるもの

──たしかに、求められていることを100%はこなすけど、120%、130%まで絶対いこうとしない人の元で働いていると、それが当たり前になってしまいますよね。

木下:やっぱり、入社当初は上司から仕事を教わるので、新入社員は「上司」=「100」として見てしまう。

 上司がそんな人でも、関係なく育つ人は実際いますが、そういうタイプの人には、そもそも上司は必要ない。

 どんな環境でも自発的に育つ本当に優秀な人には、むしろ上司がいないほうがマシです。

──「無理」が口グセの人がいると、その空気が蔓延し、部署全体が期待以上のことをやろうとしなくなりますよね。

木下:そうそう。絶対ダメです。

──そして、そのクセがついたままキャリアを積むと、別の部署に行っても、別の会社に行っても、「無理」「この辺が妥当だよね」と置きに行った仕事しかしなくなる……という感じでしょうか。そう考えると、ゾッとしますね。

木下:成果を上げられる上司からは「成果が上がる仕事のやり方」を刷り込まれますが、成果が上がらない上司から刷り込まれるものは「成果が上がらない仕事のやり方」です。

 こういったダメな「思考アルゴリズム」、つまり考え方のクセが最初にインストールされていると、その後どんなにスキルを磨いても、「できる人」との差は埋まりません。

『時間最短化、成果最大化の法則』には、「できる人」の思考アルゴリズムを全部詰め込んだので、「このままで大丈夫だろうか」と不安な人の参考になれば嬉しいですね。

(本稿は、『時間最短化、成果最大化の法則』に掲載されたものをベースに、本には掲載できなかったノウハウを著者インタビューをもとに再構成したものです)