事実関係認めるも
「罪は不成立」と弁護側
一方の弁護側は最終弁論で、金融機関は阿武町からの連絡で既に誤った振り込みだったと認識していたため、告知の必要性はなかったと反論。誤って振り込まれたお金だとしても、受取人は引き出す権利があるとした1996年の民事訴訟における最高裁判例を踏まえ、自由に振り替える正当な権限があり、虚偽情報の入力には該当しないとして無罪を訴えた。
ただし、田口被告本人は起訴状に記載された事実関係を全面的に認め「多くの人に迷惑をおかけし、申し訳ありませんでした」と謝罪。一方で法的な見解については「弁護士にお任せします」と述べていた。
では、判決の行方はどうなるのか。全国紙社会部デスクは「法学者らに『罪は成立するか』と取材しても、いろいろ見解は分かれる」と説明する。4630万円もの他人のお金を使い込んだにもかかわらず、無罪の可能性もあるということだ。
デスクによると、検察側は03年の最高裁判例を引用したが、このときは窓口での払い戻しで「ネットバンクのようなオンライン上の判断はいまだ示されていない」と、弁護側の主張を追認する法学者らも少なくない。
一方で「検察側は弁護側の主張は織り込み済みで、その上で起訴したはずだ」との意見もあり、今回は「ネットバンクを利用したケースも、この判例に準拠するのか否か」が隠れた争点になっているという。
有罪とするか無罪とするかは小松本裁判官の判断だが、前述のデスクは「今回は判断が難しい。1人で進める単独ではなく、複数の裁判官による合議でもよかったのではないか」と話していた。