「インターネット上でトラブルに巻き込まれるとき、『どうせ、親にはバレない』『どうせ親はわかってない』という油断があるように思う」
「中学受験×探究学習」を掲げ、およそ20,000人の生徒を直接指導してきた「知窓学舎」塾長の矢萩邦彦氏は、そう語ります。では、親が子どもを守るためにできることは何なのでしょうか? 矢萩氏の新刊『子どもが「学びたくなる」育て方』から要点を紹介します。(構成/編集部・今野良介)

SNSやインターネットとどう付き合うか

① 予測不可能な事態(リーマンショック・震災・政権交代・コロナ禍など)
② AIの台頭とシンギュラリティの問題
③ PISA(国際学習到達度テスト)における日本人学生のスコア低下
④ 減少する人口
⑤ 若年層の自己肯定感の低下
⑥ コンピューターゲームとSNS・スマホの影響

このリストは、2020年からはじまった教育改革の背景をまとめたものです。

最近の日本にはいろいろやっかいな問題があるとわかります。親世代からすれば、「昔は良かった」と感じてしまうかもしれません。

しかし、私はもし生きる時代を選ぶことができるとしたら、絶対に今の時代を選びます。予測不能でも模範解答がなくても、今の時代は基本的に「平和」なうえに、「技術」があるからです。私が幼かった頃には漫画やSFの世界の出来事だったことが次々に実現しています。そして、その技術があればやりたいことをたくさん実現できます。

特に、⑥のコンピューターゲームとSNS・スマホの悪影響に頭を悩ませている保護者は多いでしょうが、子どもが触れている新しい技術やコンテンツについて、みなさんはどれくらい知っているでしょうか。

比較的若い世代のお母さんやお父さんには、ネットメディアやゲームに親しんできた人も多いと思いますが、見ているコンテンツ、やっているゲームは、子どもと同じでしょうか。

子どもたちを見ていると、インターネット上でトラブルに巻き込まれるとき、「どうせ、親にはバレない」「どうせ親はわかってない」という油断があるように思います。

子どもをインターネットのトラブルから守るいちばんの近道は、親が実際にゲームやSNSをやってみることどんなものかちゃんと知っておくこと。それを子どもに直接的には言わないまでも、なんとなく醸し出しておくことです。

オンラインゲームでは、不特定多数の人とつながることはもはやあたりまえで、「オンラインゲームは危険」といってゲーム自体を禁止したり、インターネット上で人とつながるのを避けたりするのは、今の子どもの生活環境では無理があります。

犯罪の温床になるような危険なウェブサイトはたしかにあります。ダークウェブ、裏掲示板、メジャーではないSNSなどに子どもが興味を持っていると気づいたら、頭ごなしに否定するのではなく、その都度、危険性を一緒に考える機会を持つほうがいいでしょう。

「SNSトラブル」から子どもを守る最良の手段近くにいるのに、遠くを見ている Photo: Adobe Stock

今の時代に本当に子どもをインターネットの危険から守りたいなら、何かを禁止することよりも「名前や住所などの個人情報は明かさない」「写真を掲載するときは公開設定を必ず使う」「友だちの写真は慎重に扱う」など「使う時のルール」を一緒に考え、安全を確保できる方法を子どものときから伝えていくほうがいいと思います。

とかく、日本の教育現場は「ゲームより本を読め」とか「SNSは子どもに悪影響だ」などと、問題を大雑把に捉えすぎているように思います。能力開発に役立つゲームもあれば、悪影響のほうが大きい本もあります。メディアの種類で良し悪しを判断するのは思考停止と同じです。どんなゲームなのか、どんなSNSでどんな投稿をしているのか、親の目で確かめてから、心配したり、対策を考えたりしましょう。

たとえば、創作系の『マインクラフト』は1時間プレイしてもいいけれど、アクションプレイ系の『モンスターハンター』は30分にしておこうなど、コンテンツに合わせて丁寧にルールを作っていくとしましょう。そのルールを決めるときは、必ず理由とセットにすることがポイントです。

理由を共有しておくことで、たとえルールが守れなかったとしても、ルール自体の意味を考えたり、守れなかった結果どのような影響があるのかをシミュレーションする習慣ができるなどの学びが期待できます。

今の時代の技術をひと言でまとめれば「人とつながる技術」です。現代の子どもは、その技術とうまく共存し、自分の強みを活かして生きていきます。

「インターネットはよくわからないから危険」という感覚のままで子育てをすることは、かえって子どもを生きづらく育ててしまう可能性があるのではないでしょうか。(了)

矢萩邦彦(やはぎ・くにひこ)
「知窓学舎」塾長、実践教育ジャーナリスト、多摩大学大学院客員教授、株式会社スタディオアフタモード代表取締役CEO
一児の父。親の強い希望で中学受験をしたものの学校の価値観と合わず不登校になり、学歴主義の教育に強い疑問を抱えて育つ。1995年、阪神・淡路大震災の翌日に死者数で賭け事をしている同級生を見てショックを受け、教育者の道を歩み始める。大手予備校で中学受験の講師として10年以上勤め、2014年「すべての学習に教養と哲学を」をコンセプトに「探究×受験」を実践する統合型学習塾「知窓学舎」を創設。教師と生徒が対話する授業、詰め込まない・追い込まない学びにこだわり、「探究型学習」の先駆者として2万人を超える生徒を直接指導してきた。
受験を通して「学ぶ楽しさ」を発見することを目指して、子どもが主体的に学ぶ姿勢をとことんサポート。ライブパフォーマンスのように即興で流れを編集するユニークな授業は生徒だけでなく親も魅了する。多くの受験生を志望校進学に導き、保護者からの信頼も厚い。新しい教育を実践しようとする教師・学校からの相談も殺到し、多数の教育現場で出張授業、研修、監修顧問、アドバイザーなどを兼務。生徒たちに偏差値や学歴にとらわれない世界の見方を伝えるため、自身の学歴を非公開としている。
「子どもと社会をつなぐことのできる教育者」を理想として幅広く活動。住まいづくりや旅づくりの研究と監修、シンガーソングライター、カメラマンなどアートの領域から、ロンドンパラリンピック、ソチパラリンピックにジャーナリストとして公式派遣されるなど、一つの専門分野では得にくい視点と技術の越境統合を探究。独自の活動スタイルについて編集工学の提唱者・松岡正剛氏より「アルスコンビネーター」の称号を受ける。「Yahoo!ニュース」個人オーサー・公式コメンテーター。LEGO® SERIOUS PLAY®メソッドと教材活用トレーニング修了認定ファシリテーター。キャリアコンサルティング技能士(2級)。Learnnet Edge『自由への教養』探究ナビゲーター・カリキュラムマネージャー。常翔学園中学校・高等学校 STEAM特任講師。聖学院中学校・高等学校 学習プログラムデザイナー。文部科学省「マイスター・ハイスクール」伴走支援事業スーパーバイザー。2022年10月、初の単著『子どもが「学びたくなる」育て方』を上梓。