情報が次から次へと溢れてくる時代。だからこそ、普遍的メッセージが紡がれた「定番書」の価値は増しているのではないだろうか。そこで、本連載「定番読書」では、刊行から年月が経っても今なお売れ続け、ロングセラーとして読み継がれている書籍について、著者へのインタビューとともにご紹介していきたい。
第2回は2007年に刊行、大ベストセラーとなり、今でも定番書として読まれ続けている渡辺健介氏の『世界一やさしい問題解決の授業』だ。問題解決ブームの火付け役になった1冊。4話に分けてお届けする。(取材・文/上阪徹)

日本とアメリカの教育の違いが教える<br />「自分の頭で考える」ということPhoto: Adobe Stock

問題解決本ブームの火付け役

 この本が出た頃から、「問題解決」「ロジカルシンキング」をテーマにした本が、どっと世の中に送り出されることになった。言ってみれば、「問題解決」本のブームの火付け役になったと言っても過言ではない。それが2007年に刊行された『世界一やさしい問題解決の授業』だ。

 著者の渡辺健介氏は、親の転勤によって中学2年からアメリカで教育を受けることになり、1999年にイェール大学を卒業。マッキンゼー・アンド・カンパニーに入社した。

 本の原点には、アメリカに渡り、日本とはまったく異なる教育を受けることになった渡辺氏の原体験がある。

問題解決力の重要性を感じた原体験

「最も衝撃的だったのは、高校時代の米国史の授業でした。当時の日本はどちらかというと年号を覚えたり、知識偏重型のところがありましたが、アメリカではまるで違ったんです」

日本とアメリカの教育の違いが教える<br />「自分の頭で考える」ということ渡辺健介(わたなべ・けんすけ)
デルタスタジオ 代表取締役社長
イェール大学卒業。ハーバードMBA卒業。マッキンゼーの東京とニューヨークオフィスに勤務後、デルタスタジオを設立。著書の『世界一やさしい問題解決の授業』は国内50万部超、世界25ヵ国、15言語以上で発売の世界的ベストセラー。その他の著書に『世界一やさしい右脳型問題解決の授業』『自分の答えのつくりかた』(以上、ダイヤモンド社)がある。(https://whatisyourdelta.com/

 例えば、公民権運動を取り上げるときには、黒人差別の映像を、あらゆる人種が混在するクラスメイト全員で見た。一方で弾圧する側の資料や関連する小説も読んだ。その上で全員で議論し、論文を書く。この授業スタイルに渡辺氏は驚きを隠せなかったと言う。

「授業では先生に『Ken、君はどう思う?』と意見を聞かれてびっくりしました。『えっ!? 答えは先生が知っているんじゃないの? なんで生徒の僕に聞くの!?』と。まさに自分の頭で考え、意見を述べるためのクリティカルシンキングであり、ロジカルシンキングを学んでいたんです」

 そして渡辺氏はマッキンゼーに入社し、ビジネスの現場でも、クライアントの問題を解決するためにこのロジカルシンキングが活用されていることを知った。

 インタビューでは、渡辺氏はこう語っていた。

「なんでこういう考え方をもっと若い時に学校で教えてくれなかったんだろう。これが日本の教育の課題の1つではないか、と強く思ったんです」

 そしてその思いは留学を経て、実際に自ら「仕掛ける」ことに至った。

『世界一やさしい問題解決の授業』誕生のきっかけ

 渡辺氏は26歳から、ビジネススクールに通った。そこでは教授陣から、まっすぐな問いかけを日々受けたという。“What is it you plan to do with your one wild and precious life?” つまり、一度しかない人生、何がしたいのか、ということだ。

 渡辺氏は「教育」であれば人生を賭ける意義があるのではないかと思い、留学後すぐさま社内で教育プロジェクトの提案をした。それが「本を通じて問題解決教育の必要性を啓蒙し、実際に若手が学校に教えにいくプロジェクト」だった。

「社会にとっては教育に革新を起こす機会になり、マッキンゼーにとってはブランディングの機会になり、自分のような若手たちにとっては意義ある挑戦をする機会となる、三方よしではないか、と提案したんです」

 マッキンゼーには“Create your own Mckinsey”という言葉があるという。アントレプレナーシップマインドを持って、マッキンゼーのプラットフォームをうまく生かせ、という意味だ。その結果生まれたのが、『世界一やさしい問題解決の授業』だった。

「提案すると、日本支社長は当時30歳の若造に記事や書籍を書く貴重な機会をくれました。そして、全世界のトップや米国支社長と話したら『Great initiative! それは重要な課題だ。そこまでパッションがあるのであれば、マッキンゼーを飛び出して仕掛けてみなよ!』と後押しをしてくれたんです」

 そして30歳のとき、渡辺氏は教育界に新たな風を吹かせるべく会社を飛び出した。
(次回に続く)

上阪徹(うえさか・とおる)
ブックライター
1966年兵庫県生まれ。89年早稲田大学商学部卒。ワールド、リクルート・グループなどを経て、94年よりフリーランスとして独立。書籍や雑誌、webメディアなどで幅広く執筆やインタビューを手がける。これまでの取材人数は3000人を超える。著者に代わって本を書くブックライティングは100冊以上。携わった書籍の累計売上は200万部を超える。著書に『成功者3000人の言葉』(三笠書房<知的生きかた文庫>)、『子どもが面白がる学校を創る』(日経BP)、『10倍速く書ける 超スピード文章術』(ダイヤモンド社)ほか多数。またインタビュー集に、累計40万部を突破した『プロ論。』シリーズ(徳間書店)などがある。

【大好評連載】
第2回 どうすれば日本から「シェリル・サンドバーグ」を輩出できるか?
第3回 「刊行から15年経っても大人気」ベストセラー書が教える問題解決で一番大事なこと
第4回 「あなたの順番を待つ必要はない」自分から仕掛ける力を身につけるには?

日本とアメリカの教育の違いが教える<br />「自分の頭で考える」ということ