スマホを操作する手Photo:Bronek Kaminski/gettyimages

Z世代は「タイパ(タイムパフォーマンス)」主義であるという新説がメディアをにぎわせている。だが、若者研究の第一人者である原田曜平氏は、その風潮に異を唱える。原田氏らが実施した調査では、若者は必ずしもスピードや効率性ばかりを重視していないことが分かったからだ。今回は、その実態を前後編でお伝えする。前編となる本記事では、若者の間で「蛇口居酒屋」が流行している意外な理由について解説する(後編はこちらから)。(ダイヤモンド編集部 濵口翔太郎)

「タイパ主義」に陥っているのは
若者ではなく「意識高い系のおじさん」

 1990年代後半~2010年代に生まれたZ世代の若者たちは「タイパ」を重視する――。ここ数カ月、そんな新説がメディアで盛んに報じられている。

 タイパは「タイムパフォーマンス」の略語で、「時間対効果」と同様の意味を持つ。一説によると、若者の間でこの言葉が使われるようになったのは2020年ごろだという。以降は上の世代にもじわじわと拡大し、22年には三省堂が選ぶ「今年の新語2022」の大賞に選ばれた。

 だが、若者研究の第一人者であり、Z世代のトレンドを追い続けてきたマーケティングアナリストの原田曜平氏は「若者はタイパ主義」だという風潮を疑問視しているという。

「タイパという概念が若者の間で流行しているように見えますが、私はそうではないと思います。『タイパ、タイパ』と言っているのは、むしろ意識高い系のおじさん。彼らは『朝活をして、時間を効率良く使おう』などと、時間対効果を重視していますよね。

「若者がタイパ主義とは思えない」Z世代研究の第一人者・原田曜平氏が断言の訳原田曜平(はらだ ようへい)/1977年4月4日生まれのマーケティングアナリスト。芝浦工業大学・教授、信州大学・特任教授、レイヤーズ・コンサルティング顧問などを務める。ワタナベエンターテインメント所属。専門は日本や世界の若者の消費・メディア行動研究及びマーケティング。2013年「さとり世代」、2014年「マイルドヤンキー」がユーキャン新語・流行語大賞にノミネート。この他にも「伊達マスク」など様々な流行語を作り出している。

 Z世代がタイパ主義だとされる一因に、動画配信サービスを倍速視聴する人が多いことが挙げられますが、それは単にTikTokなどの短尺動画に慣れているからではないでしょうか。単に長尺の動画に不慣れなだけなのに、タイパ主義だとひとくくりに分析されている印象です」(原田氏、以下同)

 若者コミュニティーの「本当のトレンド」を探るべく、原田氏は22年におけるZ世代の消費行動を調査した。その結果、若者の間では今、新型コロナウイルス感染拡大によって距離が遠のいた友人たちと「友情を築き直したい」というニーズが生まれていることが分かった。

 その過程では、若者たちが必ずしもタイパを重視せず、再会した友人との人間関係の再構築にじっくり取り組む例が見られたという。その傾向が特に顕著だったのは「飲み会」だ。

 原田氏によると、若者の飲み会の場として、セルフサービスでお酒を注いで飲める「蛇口居酒屋」が流行しているという。だが、人気の要因は「店員と関わる時間が惜しい」というタイパ重視のものではないという。その意外な理由と、新説だけでは語れない若者文化の具体例を、次ページで詳しく解説する。