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オレオレ詐欺や預貯金詐欺などの「特殊詐欺」が問題化している。現場で犯行に及んでいるのはSNSでリクルートされた若者たち。彼らはいかにして犯罪に手を染めていくのだろうか。本稿は、田崎基著『ルポ 特殊詐欺』(ちくま新書)の一部を抜粋・編集したものです。
きっかけはツイッターの投稿
「闇バイトしませんか?」
その事件は、神奈川新聞紙面の片隅にベタ記事の1本として掲載されていた。
〈逮捕容疑は、氏名不詳者らと共謀して80代の無職女性からキャッシュカード数枚をすり替えて盗み、うち1枚のキャッシュカードで現金約30万円を引き出して盗んだほか、女性から現金百数十万円を手渡しで詐取した、としている〉
横浜市中区にある金融機関のATMの前で現行犯逮捕されたのは上原通雄(仮名、逮捕当時24歳)。起訴された事件は4件だったが、上原はその他にも関わった全ての犯行を自供した。わずか半年で被害者は十数人を数え、盗んだキャッシュカードは約40枚、被害総額は1000万円を超えた。受け子と出し子の両方を担った上原の報酬は1回1万円。約20回の犯行で得たのは20万円ほど。2021年5月、上原に懲役3年6月の実刑判決が言い渡された。
きっかけは「手軽なアルバイト」だった。ツイッターに投稿された「闇バイトしませんか?」に反応した上原は、甘い話を軽信した。ツイッター上の機能の一つである、ユーザー同士が直接連絡を取り合えるダイレクトメッセージ(DM)で、その投稿者と直接連絡を取り合った。その後のやりとりは、より秘匿性が高く、メッセージが設定した時間で自動的に消えていく通信アプリ「テレグラム」へと移行した。通信先の相手は、誰だか分からない「氏名不詳者」だ。
最初に指示された「闇バイト」は実に簡単なことだった。自分のスマホを1日貸すだけで1万円がもらえるのだという。
「ゲームイベントで大量のスマホが必要だから」との説明だった。言われるがままに運転免許証の写真をテレグラムで送った。指示されたコインロッカーにスマホを入れ、数日後にロッカーに行くとスマホの返却とともに、現金が入れられていた。
「(本当に)もらえるんだ……」。現金を手にした上原は、相手を信じ切った。
しかし「たやすいバイト」を1~2回こなした時点で、事態は一変する。指示役の態度が豹変した。
「今までやったバイトは詐欺だから。バラされたくなかったら、今から送るマニュアル通りにやれ」
背後から殴られ
「逃げられると思うなよ」
最初に指示されたのは「出し子(騙し取られたキャッシュカードを使ってATMから現金を引き出す役割)」だった。すぐに「受け子(被害者宅を訪れてキャッシュカードや現金を受け取る役割)」もやるようになった。指示されたコインロッカーから他人名義のキャッシュカードを取り出し、指示されたATMで現金を引き出す。手口の流れからして、ニュースでよく報じられているもので、明らかに特殊詐欺と分かった。このままではいつか逮捕される。もうやめたい。そう思ったが、真剣に考えたときにはもう、遅かった。
「言うこと聞けないなら、ツイッターでお前の免許証の写真を晒すよ」
実際、ツイッターにはそうした写真が投稿されていた。晒されたツイートには「こいつ詐欺の犯人です」などと説明文が添えられ、免許証を顔の横に示した自撮り写真が掲載されていた。
「どうすればやめられるのか……」。苦悶を抱えつつも、上原は指示に従い続け、神奈川、東京、千葉、茨城と関東各地で犯行を重ねた。
「現金の受け渡し場所は決まって公園とかにある公衆便所でした。個室に入り、ノックを待つんです」
顔も名前も分からない「氏名不詳者」がやって来る。「テレグラム」に届く指示通り、個室ドアの下から現金入りの封筒を差し出すと、すっと引き取られた。
上原は、何回目かの現金授受を終えた時、「これ以上犯罪に関わりたくない。最後にしよう」と意を決した。1回1万円という報酬は、逮捕される危険性と比較しても全く割に合わないのは明らかだ。指示役の男に「もうやめたい」と電話で伝えた。
すると、公衆トイレを出たところで見知らぬ男に、背後から突然、頭を殴られた。男が走り去る。
すぐに着信がきた。
「これで分かっただろ。逃げられると思うなよ」
「お年寄りは笑顔と元気で信用します!」
いくつも届く「詐欺マニュアル」
「闇バイト」を入り口に詐欺という「仕事」を軽い気持ちで始めさせ、やがて莫大な被害を生み出す。組織的「特殊詐欺」の片棒を担がせる犯行グループの手口に特徴的なのは、関わる人間を互いに分断し、手順を複雑化させている点だ。







