経理社員の業務負担を減らすために
クラウド会計システムを導入

 福岡市から近い福岡県篠栗町で1967年に創業した福岡篠栗モーター株式会社は、福岡銀行と長く取引してきた地場企業だ。井上健二氏は、自動車の販売・整備・板金塗装、レンタカー、自動車保険の代理店などを営む同社の2代目社長である。

 自動車販売店や板金工場など四つの事業所で、35人の社員が働く同社において、井上氏の悩みは、経理担当者が毎晩遅くまで残って仕事をしていることだった。自動車の販売と修理や整備、レンタカー、自動車保険ではそれぞれ経理処理が異なる。また、税理士の指導もあり、入金伝票、出金伝票に加えて振替伝票なども使っていたほか、元帳となる帳簿のほかに補助簿もあった。

 伝票を会計システムに入力したり、帳簿に転記したりする作業が煩雑だった上、「キャッシュレス決済を導入したり、定額制の自動車メンテナンスパックを始めたりするたびに、伝票と経理業務が増えていました」と井上氏は振り返る。

 「このままでは社員が辞めてしまうし、新しい人も来てくれない」。そう危機感を抱いていた井上氏に、福岡銀行篠栗支店の行員が紹介してくれたのが、同行のデジタル化支援コンサルティングだった。

 「歴代の支店長と付き合いがあり、福岡銀行なら安心して相談できるし、ITベンダーと違って高いシステムを買わされるようなこともないだろうと思いました」(井上氏)

地銀の雄「ふくおかFG」が、中小企業のデジタル化コンサルに本腰を入れる訳福岡篠栗モーター社長の井上健二氏は、経理担当者の業務負担の大きさに危機感を抱き、デジタル化に踏み切った

 同社を担当することになったのが、福岡銀行営業統括部デジタル営業グループの若手、村上渉氏である。村上氏は社長の井上氏と面談して課題を聞いた上で、担当者から経理業務の流れについて聞き取りを始めた。「最初はヒアリングのみで業務フローを把握できると思っていたのですが、それだけでは限界がありました。担当者と膝を突き合わせて、業務フローをBPM(ビジネスプロセス管理)を使ってチャートに書き起こしながら、丁寧に全体を可視化していきました」(村上氏)。

 福岡銀行が福岡篠栗モーターの支援を始めたのは2022年6月のことだったが、フェーズ1のプランニング、つまり現状分析・課題抽出・計画策定に村上氏は数カ月をかけた。そして、経理業務にクラウド会計システムを採用することを決め、クラウドに強いITベンダーと協力しながら同年12月にシステム導入に着手した。23年4月には新システムの導入が完了する予定だ。「新たなクラウド会計システムは銀行口座と連携でき、取引明細を自動で取得できるなど、作業効率を大幅に向上できます。補助簿もなくせる見込みです」と、村上氏は業務改善の見通しを語る。

 2年分のクラウド利用料とシステム導入に伴うITベンダーのサポート料には、公的補助である「IT導入補助金」(「デジタル化を加速させる、公的支援制度の賢い勝つ方法」、2月15日公開を参照)を活用して自社負担を減らした。「補助金が使えることも、村上さんが教えてくれました。国の後押しがあるうちに、デジタル化を始めてよかったです」と、井上氏は満足げだ。そして、今後は「業務のデジタル化をもっと進めて、7割の人員で今の仕事をこなせるようにしたい。そうすれば、社員の給料を上げられるし、積極的な事業展開に乗り出せます」と展望を語った。

 井上氏のように生産性向上と賃金アップに前向きな経営者が増えれば、地域経済全体が底上げされ、ひいてはFFGの業績にも跳ね返ってくるだろう。その好循環を生み出すために何が必要か。あらためてFFGの河﨑氏に尋ねた。