隠れた3番目の吉野家
「なんちゃって黒い吉野家」の奥深さ

 とはいえ、オレンジの看板の吉野家があまりに黒い看板の吉野家と居心地が違うのであれば、期待したほどそのような女性客層は増えないかもしれません。そこで3番目の要素が関係してきます。私が勝手に名付けたネーミングですが「なんちゃって黒い吉野家」が存在するのです。

 これは私も最近になって気づいたのですが、私の事務所の近所にもオレンジの看板の吉野家と黒い看板の吉野家がありまして、後者は店舗の内装もスタイリッシュですし、座席でスマホを充電することもできるのです。

 しかし店内はカウンター席だけですし、ドリンクバーや限定メニューは置いていません。調べてみると近所の吉野家は看板が黒いだけで吉野家本体からは「クッキング&コンフォート」には認定されていないのです。

 これを私は「なんちゃって黒い吉野家」と名付けました。全国にどれだけの数あるのかはわかりませんが、少なくともうちの近所にあるお店で、よくよく考えてみると戦略的には絶妙なポジションにある店舗です。

 近所には学生が通う専門学校がいくつもあり、かつ女性も多く住んでいるエリアです。言い換えると駅前にあるオレンジの看板の吉野家よりも客層が若い。だったら外見は黒い吉野家にしてしまったほうが、若い客層は入りやすいわけです。

 その一方でメニューはオレンジの吉野家と同じになっているうえに、長居できそうなテーブル席はないわけで、つまり一日60回転の回転率は維持できるわけです。

 そう考えると吉野家の店舗業態は実は3種類で、従来のファン層が中心のオレンジの看板の吉野家と、新規の顧客層の取り込みを狙った黒い看板の吉野家、そして新規客でも入りやすいけれどもビジネスモデル的にはオレンジと同じ「なんちゃって黒い吉野家」の3つの業態が絶妙なバランスを保ちながら、吉野家という100年以上続く老舗飲食店の顧客数をこれからも増やしていこうと考えているわけです。

 いやいや、企業戦略というものは実に奥が深いと思いませんか?