
元タレントの性加害問題をきっかけに、解体的出直しを図るフジテレビ。親会社のフジ・メディア・ホールディングス(FMH)が6月下旬に開く株主総会には、アクティビストが株主提案を出し、委任状争奪戦に突入している。スポンサー離れなどで業績が苦境に陥る中、巨大メディアはどう反転攻勢を目指すのか。特集『株主総会2025』の本稿では、フジテレビ社長でFMH次期社長の清水賢治氏を直撃した。清水氏は、業績面でフジが“独り負け”を招いた理由に加え、その処方箋としての「コンテンツへの大転換」について解説する。開局以来65年で初となる、テレビ局の常識を覆す新たな取り組みや大胆な組織再編も明らかにする。また、ガバナンス改革の進捗(しんちょく)状況や、株主提案への対応、フジサンケイグループの在り方についての見解も語った。(ダイヤモンド編集部 名古屋和希、下本菜実)
フジテレビは役員が全て退任
ダルトン提案は「合理性ない」
――元タレントによる性加害問題を受けて、ガバナンス改革を進めてきました。進捗状況は。
3月下旬にフジ・メディア・ホールディングス(FMH)とフジテレビの新役員体制案を公表しました。それから4月下旬に、もう一段刷新し、5月半ばに最終的な新役員体制案を発表しました。取締役会の構成は、FMHは取締役を17人から11人に、フジテレビは22人から11人に減員しました。
さらに、取締役の女性比率を3割以上にし、平均年齢も大幅に下げ、そして、独立社外取締役が過半数を占めるようにしました。今回の改革で、フジテレビでは(港浩一前社長が退任した)1月27日に在任していた役員は全て退任しました。全く別の会社になったというぐらいに改革は進みました。
――相談役・顧問制度も廃止しました。
廃止しましたし、 役員の定年制も導入しました。新体制案は今考えられることはすべて盛り込んだといえます。
――米投資ファンド、ダルトン・インベストメンツが12人の取締役選任案を求める株主提案を出していますが、FMHは反対を表明しました。提案を一部受け入れる考えなどはなかったのですか。
5月に改革アクションプランを示しました。そのアクションプランを実行することで、企業価値を向上させることが最も大事だと思っています。そもそも、アクションプランを実行するために、どんな経営体制が良いか議論してきたわけです。アクションプランの策定と並行し、役員の構成を詰め、そこにガバナンス改革の観点も入れて、作り上げたのが新体制案です。
その後に、(ダルトンから)新たに12人の取締役の提案を受けました。もちろん、提案を受けた以上はしっかりしたプロセスで検討しなければなりません。全員に面談はできませんでしたが、最終的には社外取締役が過半を占める経営諮問委員会から取締役会に上申してもらい、取締役会で(反対を)決定しました。
その際に重視したのが、アクションプランを実行するための体制を変更するにあたって、合理的な説明がつくかどうかという点です。しかし、変えるほどの合理的な理由はありませんでした。
――ダルトンは対話が不十分だったと主張しています。
十分やり取りはしたと思います。(ダルトンの)言い分が通らなかったから交渉ができなかったという理屈になっているのではないでしょうか。ダルトンは最低2人を受け入れるのがマストということでしたが、われわれからすると、特定株主の利益を代表する方を入れることになる。新体制案は、長年の大株主で、事業に近いところにある方にも社外取締役を退任してもらいました。なので、もしダルトンの主張を受け入れれば、それは合理的ではなくなってしまいます。
――拒絶したのではなく、合理性を考えたうえで、判断したと。
合理的な理由がなかったとしか言いようがないです。ただ、あちらは「(取締役が)一人でも入れば勝ち」といった発言をしていますが、よくわからないですね。われわれは企業価値を向上させるために、アクションプランを示しました。それの是非が問われるのはわかりますが、取締役を入れるか入れないかという議論は違いますよね。
――アクションプランの手ごたえは。
われわれが今できるベストな案は出しました。もちろん、全てが良くなるような魔法があればいいんですけれども、それはありません。ですので、われわれが今からできること、今すぐにはできなくても、こういう方向で進めること、をしっかり示したつもりです。
――FMHの収益は不動産に依存しています。今後のFMHはどう稼いでいくのでしょうか。
現在のFMHの最大の経営課題は、利益率が低いことです。なので、企業価値を上げるには、利益率を上げなければなりません。2大セグメントでは、(不動産を含む)都市開発・観光セグメントの利益率は低くなく、メディア・コンテンツセグメントは低いです。なので、メディア・コンテンツセグメントを立て直し、利益率を上げていくことに注力します。
――メディア・コンテンツセグメントの利益率が低かったのはなぜですか。
次ページでは、FMH次期社長の清水賢治氏が、経営課題である低利益率の理由について解説する。実は、そこにはテレビ局の構造的な問題が横たわっていた。「ドラゴンボール」や「ちびまる子ちゃん」など人気アニメを手掛け、日本のアニメ界をけん引してきた清水氏が、低利益率からの脱却に向けて掲げる「コンテンツへの大転換」の戦略を解説する。テレビ局のこれまでの常識を覆す、大胆なワークフローや組織の見直しの方向性とは。一方で、単なるコンテンツ企業ではなく、テレビの価値を再定義し、原点に立ち返るとも宣言する。