「トランプ減税法案」は火ダネ満載、マスク氏との“蜜月決裂”に続く党内対立と支持層反発Photo:The Washington Post/gettyimages

トランプ減税、規模は4.5兆ドル
減収分のうち2.1兆ドルは関税収入で確保

 大統領選以来、「蜜月関係」にあったトランプ大統領と実業家、イーロン・マスク氏の関係決裂のきっかけとなったとされるトランプ減税法案(One Big Beautiful Bill Act)だが、トランプ政権にとって今後の政権運営を不安定化させかねない火ダネはなお残る。

 法案は、第1次トランプ政権が2017年に成立させた所得税、法人税などの減税法(Tax Cuts and Jobs Act: TCJA)が期限切れを迎えることから、その延長を図るものだ(注1)。

 トランプ減税は、関税政策によるインフレ再燃などの悪影響への懸念が米国内にも強いなかで、トランプ大統領にとって、来年の議会中間選挙に向け経済活性化の期待をアピールできる目玉政策でもある。

 減税延長で必要な約4.5兆ドルの財源の約半分について相互関税(10%一律部分)などトランプ関税の収入(2.1兆ドル)を当て込んでいるほか、歳出削減(1.5兆~2兆ドル)ではバイデン前政権時代のグリーンエネルギー支援策廃止をもり込むなど、トランプ政策の骨格ともいえるものだ。

 だが、この法案が財政収支に及ぼす影響を試算した議会予算局(Congressional Budget Office: CBO)(注2)によれば、2034年までの10年間で財政赤字は2.4兆ドル拡大する見通しだ。トランプ減税による減収が3.7兆ドルになるのに対し、歳出削減は1.3兆ドルにしかならないからだ。

 マスク氏は歳出削減額が少ないことに強く不満をもち、トランプ大統領と、たもとを分かった。

 トランプ大統領は、大規模減税を実現する法案を「大きく美しい」と自画自賛するが、法案をめぐるあつれきはこれだけでは終わりそうにない。

 歳出をめぐっては、共和党内にも、財政赤字の規模などをめぐって党内対立がある。法案の内容を見れば、減税の恩恵は富裕層に偏り、一方で関税引き上げによる物価上昇が低中所得層の負担を重くする。とりわけトランプ氏の支持基盤は低中所得層が多く、トランプ政権への失望が強まる可能性がある。

 法案は現在上院で審議されており、トランプ大統領は7月4日までに可決するよう求めている(注3)が、内容をめぐって共和党内でさまざまな意見の対立があり、それらはまだ解決されていない。

 減税法案がトランプ大統領の思惑のように成立するのかどうか、今後もひと山もふた山もありそうだ。