「1日3食では、どうしても糖質オーバーになる」「やせるためには糖質制限が必要」…。しかし、本当にそうなのか? 自己流の糖質制限でかえって健康を害する人が増えている。若くて健康体の人であれば、糖質を気にしすぎる必要はない。むしろ健康のためには適度な脂肪が必要であるなど、健康の新常識を提案する『ケトン食の名医が教える 糖質制限はやらなくていい』(萩原圭祐著、ダイヤモンド社)。同書から一部抜粋・加筆してお届けする本連載では、病気にならない、老けない、寿命を延ばす食事や生活習慣などについて、「ケトン食療法」の名医がわかりやすく解説する。

糖質制限したからといって健康になるわけではないPhoto: Adobe Stock

さらに健康になるために、
食事のあり方を考え直してみませんか

 皆さんは、糖質をとることにどんなイメージを持たれていますか? 私が診療する方々の声から拾うと、以下のようになります。

「最近、ちょっと体重が気になるな~」
「じゃ、ご飯(お米)をやめて、糖質を減らしたらいいんじゃない!」

 といった感じで、糖質を減らせば、簡単にやせられるというイメージになっていると思います。

 その他には、

「糖質のとりすぎは、がんにもよくないらしいよ」
「じゃ、親戚の人に糖質をとるのをやめるように話しておこう」

 そんな感じで、一般に糖質のことが捉えられているように思います。

 しかし、手っ取り早く、お米を食べるのを減らすことが、日本人の健康に本当に役立つのでしょうか? 糖質に対する世間で言われている常識をもう一度、考えて直してみませんか?

 本連載では一見、正しいと思われている健康常識を、私が知りうる範囲で検討し直したいと思います。

糖質(お米)は、悪者ではない

 私は、大阪大学医学部附属病院の総合外来で内科医をしながら、10年以上にわたり、現在進行形でがん患者さんに向けて「ケトン食」の研究を続けています。普段は、がんや難病の患者さんを対象に、診療や研究を行っています。

 ケトン食とは、糖質を控えて脂質を増やすことで、肝臓でつくられるケトン体の産生を誘導する食事のことです(ケトン体については、のちほど詳しく説明します)。

 ケトン食では、世間で言われる糖質制限よりはるかに厳しい糖質の管理を行って、しっかり脂肪(脂質)をとる食事を指導していきます。

 この10年、たくさんのステージⅣ(がんが最も進行し肺や肝臓に転移している状態)のがん患者さんと一緒に、どうやって糖質量を管理したらいいか、私は誰よりも真剣に取り組み、世界に向けて、その研究成果を発表してきました(Hagihara et al.Nutrients2020,Nakamura et al. Nutrients2020)。

 おかげさまで、その成果は高く評価され、私たちのがん患者さんとの協力のもと研究を重ねたケトン食の方法は、アメリカ、シンガポール、日本でも特許を取得することができました。

 がむしゃらに走り抜けて10年が過ぎ、ふと立ち止まって世間を見回すと、一般の糖質に対する考え方が、患者さんたちと一緒になって積み上げてきた糖質への理解と大きくかけ離れていることに気が付きました。

 糖質制限は、日頃、糖質依存の生活をしている人たちへの警鐘として、一定の役割を果たしたように思います。確かに糖質のとりすぎはよくありません。

 しかし、本連載の中で順次解説していきますが、お米は悪者ではないし、糖質を制限したから健康になるわけでもありません。当たり前の話ですが、どんないい方法も、その方法にふさわしい人たちが実践しないと意味がないのです。

 血圧が高い人たちが、血圧を下げる薬を飲むのはいいけれど、血圧が正常の人が、薬を飲む必要がないのと同じことです。

 そもそも、健康な人たちや、体づくりに糖質が必要な若い年代では、糖質制限をする必要はないのです。むしろ、もっと和食を見直して、本来、日本人が営んできた健康な生活を取り戻すべきだと思います。

 本連載は、

「最近、なんとなく調子が悪いな」
「もっと、健康で生き生き生活したい」
「家族にがんになる人が多くて心配」

 などと思っている方々に手に読んでもらいたいと思っています。

 世間では注目されていませんが、すでに蓄積された食に関連する多くのエビデンスをできるだけわかりやすく紹介していきます。加えて、ケトン食に関しても、科学的に評価された最新の報告と私の研究室で積み上げてきた研究成果をわかりやすく解説します。

「糖質とケトン体」は、
「太陽と月」のように補完し合う関係

 世間では、たくさんの糖質制限に関する書籍が出ており、私のところに来る患者さんたちが誤解されていることがあります。それは、糖質とケトン体はまるで敵対する関係だと考えている方が実に多いということです。

 しかし、実際、私の研究ではそのような事実はなく、「糖質とケトン体」は「太陽と月」のように補完し合う関係なのです。そのリズムを理解し、ケトン体の働きが回復し維持されたら、健康や若さを保てるのです。本連載では、そのために、日常における食生活や運動などで実践できることも紹介していきます。

 私が長年研究してきたケトン食療法が、今後、医療の世界で当たり前のように取り入れられるようになれば、がん治療やがん予防、糖尿病治療やダイエットなど、医療の世界を大きく変えていくことになると予想されます。

 さらに、医療の分野にとどまらず、健康長寿のカギとなるケトン体の働きを幅広く私たちの日常生活にも応用すれば、さらなる健康増進に役立つことが期待できます。

 本連載で紹介するのは、医療の最先端研究にもとづいた新たにアップデートできた情報であり、あなたの健康常識を一変させるものになると思います。

 どうか期待して、健康の新常識への扉を開いてみてください。(次回へ続く)

本原稿は、萩原圭祐著『ケトン食の名医が教える 糖質制限はやらなくていい』からの抜粋です。
監修 大阪大学大学院医学系研究科 先進融合医学共同研究講座 特任教授・医学博士 萩原圭祐
萩原圭祐(はぎはら・けいすけ)

大阪大学大学院医学系研究科 先進融合医学共同研究講座 特任教授(常勤)、医学博士
1994年広島大学医学部医学科卒業、2004年大阪大学大学院医学系研究科博士課程修了。1994年大阪大学医学部附属病院第三内科・関連病院で内科全般を研修。2000年大学院入学後より抗IL-6レセプター抗体の臨床開発および薬効の基礎解析を行う。2006年大阪大学大学院医学系研究科呼吸器・免疫アレルギー内科助教、2011年漢方医学寄附講座准教授を経て2017年から現職。2022年京都大学教育学部特任教授兼任。現在は、先進医学と伝統医学を基にした新たな融合医学による少子超高齢社会の問題解決を目指している。
2013年より日本の基幹病院で初となる「がんケトン食療法」の臨床研究を進め、その成果を2020年に報告し国内外で反響。その方法が「癌における食事療法の開発」としてアメリカ・シンガポール・日本で特許取得。関連特許取得1件、関連特許出願6件。
日本癌治療学会、日本臨床腫瘍学会、日本臨床栄養代謝学会(JSPEN)などの学会でがんケトン食療法の発表多数。日本内科学会総合内科専門医、内科指導医。日本リウマチ学会リウマチ指導医、日本東洋医学会漢方指導医。最新刊『ケトン食の名医が教える 糖質制限はやらなくていい』がダイヤモンド社より2023年3月1日に発売になる。