「重要なプロジェクトだから」と会議に招集されたものの、毎回、調査や報告ばかりでプロジェクトが一向に進まない……。こんな話をよく聞くが、なぜそのような事態に陥るのか。ブログ「Chikirinの日記」で人気の社会派ブロガー・ちきりん氏は、著書である『自分のアタマで考えよう』の中で、「大事な思考のプロセスが抜けている」と指摘する。本記事では、本書の内容をもとに「なぜ会議が進まないのか」「会議を進めるために必要な思考のプロセスとは何か」などについてご紹介する。(構成:神代裕子)

自分のアタマで考えようPhoto: Adobe Stock

会議が「無駄なもの」になっていないか

「議論が進まない」「無駄な会議が多い」。このように、ビジネスパーソンの愚痴には会議に関することも多い。

回数は重ねているのに一向に着地点が見えない」なんて話もよく聞く。

 ではなぜ、このようなことが発生するのだろうか。

 ちきりん氏の著書『自分のアタマで考えよう』では、次のような例が挙げられている。

 社長から経営企画室長に「例の新規事業に今年こそ乗り出すべきか、早急に検討してほしい。我が社の命運がかかっている」という指示がある。

 業界でも話題となっている注目分野への進出に関する判断であるため、全社横断的にメンバーが集められ特別チームが編成され、検討が進められていくことになる。

1週間後の第二回会合。技術部門が最新の技術動向についてプレゼンします。続いて法務部門の担当者が特許上の懸案事項について補足、財務部門は資金調達の選択肢について説明し、海外部門が米国の顧客動向について報告します。(中略)1週間後の第三回会合。ここでも各部門から完璧ともいえる調査報告がなされます。(中略)と、こういう会議が毎週続くわけです。が、いつまでたっても何も決まりません。(中略)メンバーの手元にある資料のフォルダーは、会合を重ねるごとに分厚くなります。その資料のクオリティたるや、今やそのまま出版できるほどです。でも……なにも決まりません。なにも決まらないまま、ただただすばらしいレポートが積み重なっていくのです。(P.24-26)

 しかも、数カ月後にはライバル社が一足先にその事業に進出を決めたという一報が飛び込んでくる。そのニュースを聞き、慌てて「じゃぁ、我が社も進出しよう」という意思決定がされてしまうのだ。

 これでは「一体、何のための検討会議だったのか」と思わざるを得ない。

「意思決定のプロセス」の決定が最重要

 こういった実りのない会議は、日本中で行われているのではないだろうか。

 忙しいビジネスパーソンにとって、週に1〜2時間拘束されるだけでも負担は大きい。

 調査や資料作成などの事前準備も含めると、かなりの時間を費やすことになる。

 それなのに毎回何も決まらないとなると、脱力してしまうだろう。

 なぜこんな状況に陥るのか。それは、「情報を集めて分析することに夢中になっており、どうやって結論を出すべきなのかを先に決めていないから」だと、ちきりん氏は指摘する。

 情報は探せば探すだけ出てくる。それをもとに立派な資料を作れば、「やっている感」は出るが、いくら情報ばかりを集めても意思決定はできない、というのだ。

技術や米国の情報、法務や財務の分析、顧客に関する情報がばらばらと集まっても意思決定はできません。必要なのは、「どの情報がどうであれば、我が社はこのビジネスに進出する。どの情報がどうであれば、進出すべきではない」という意思決定のための思考プロセスなのに、それが存在していないからです。
私たちがなにかを決めるときには「情報」とは別に
「意思決定のプロセス」が必要です。(P.28)

 しかも、この意思決定のプロセスは、「情報収集をはじめる前に考えるべきことである」とちきりん氏は主張する。

「意思決定のプロセス」で情報収集も効率化

 なぜ情報収集前に、意思決定のプロセスを決めておく必要があるのか。

 その理由は、「意思決定のプロセスが明確になれば、それに合わせて必要な情報だけを集めればよいので、情報収集に必要な時間が大幅に短縮できるから」と、ちきりん氏は語る。

 たとえば、洋服を買う際に「この質、このタイプの服については、1万円以下のものしか買わない」と決める。

 これが「意思決定のプロセス」だ。

 その意思決定プロセスを持っていれば、1万円以上の洋服を取り扱っているようなブランド店には行く必要はなくなる。

 服のタイプと上限金額が決まっているのだから、ネット通販で絞り込んで検討したっていい。

 前述の会議も同じで、「海外進出はしない」「最重要ポイントはコストだ」などを最初に決めていれば、海外市場の調査をする必要はなく、コストに関する情報だけを集中的に調べれば良かったことになる。

迅速な意思決定が求められるビジネスでは、「このビジネスをやるなら、こういう方法でやらないと我が社は勝てない。そのためには、これとこれとこれを事前に確認しておく必要がある!」と、具体的な意思決定プロセスを明確化し、それらに必要な情報もリストアップしてから調査や分析をはじめるべきです。そうすれば圧倒的に効率良く結論を出すことができます。(P.32)

 自社の会議において、この「意思決定のプロセス」が最初にきちんと決められているか、一度確認してみることをおすすめする。

抜け落ちやすい「考える」という行為

 ちきりん氏は、本書でもう一つ注意点を挙げる。

 それは、会議において「情報を集めている」「分析をしている」「話し合っている」といった行為をしている中で、「考える」部分が抜け落ちることがある、という点だ。

「考えること」「思考」とは、インプットである情報をアウトプットである結論に変化するプロセスを指します。「私は考えた」というのは、「私はあるインプットをもとに、なんらかの結論を出した。ある考えに至った」という意味です。(中略)「私は考えた!」と言って、「じゃあ、結論(=あなたの意見)はなに?」と聞かれたときに、なにも浮かんでこないのであれば、それはじつは考えていないのです。(P.34)

 私たちは、「作業」をしていることを「考えている時間」だと思い込んでしまうことがあるという。

「会議の資料をきちんと作った」「いろいろと話し合って意見を出した」ということと「結論を出す」のは別のことであるとしっかり認識しておかなければならないのだ。

 こういった点をしっかり意識して、「なんとなく、会議をしている風」になっていないかを振り返ってみるといいだろう。

 今回は、「何も決まらない会議」を例に話を進めたが、本書には他にもたくさん「自分の頭で考える必要性とその方法」について書かれている。

「考える力」は仕事でも、人生の選択をする際にも役に立つものだ。身につけたい人は、ぜひ本書を手に取ってみてほしい。

「自分のアタマで考える」とはどういうことなのかを見直すきっかけになるはずだから。