ちゃんと考えて作ったはずの資料にダメ出しされて、上司や先輩から「もっと自分で考えなさい」と言われてしまった……。そんな悔しい思いをした人に向けてアドバイスをくれる本がある。社会派ブロガー・ちきりん氏の著書『自分のアタマで考えよう』だ。「思考する」とはどういうことか、そのための方法やステップを教えてくれる本となっている。本記事では、本書の内容をもとに、「考える力」をつけるための方法をお伝えする。(構成:神代裕子)

自分のアタマで考えようPhoto: Adobe Stock

「作業」と「思考」は別物

 一生懸命作ったプレゼン資料を上司に見せたら「内容が薄い」「もっとよく考えろ」と言われてしまった、なんて経験があるビジネスパーソンは少なくないのではないだろうか。

「資料作成用のソフトをフル活用して、フォントを変えたり見やすいようにイラストを入れたり、アニメーションをつけたりしたのに悔しい……」。

 もしもそんなふうに感じた場合は要注意だ。

 それは「考えてもいないのに、考えたつもりになってしまっている状態である」と、ちきりん氏は指摘する。

 プレゼン資料だけでなく、ネットで情報収集をしたり、徹夜で表計算ソフトを操作したりといったことも同じ問題を抱えているのだという。

特に表計算シフトに向かっている時間を「考えている時間」だと思い込んでいる人は要注意です。ああいったソフトを操っている間、たいていの人はなにも考えていません。作業をしているだけです。作業だから、寝不足で頭が回っていなくても続けられるのです。(P.34)

「作業」と「思考」は違う。

 ちきりん氏はそのことを、資料をグラフ化する過程を例に挙げて説明する。

「思考」が弱いと「ムダな作業」が発生する

 数字が大量に記載された資料を、グラフ化する際のプロセスは次のようなものになる。

①この数字をグラフ化する意義があるかどうか考える。(作業に必要な手間と、グラフ化の意義を比較して決める。)
②数字を表計算ソフトに入力する。
③円グラフにするか、棒グラフにするか、などグラフの形式を決める。
④そのグラフにするための操作ボタンをクリックする!
⑤グラフの体裁を整える。
(P.35)

「この5つの過程の中で、『考えている』と言えるのは、①と③だけである」とちきりん氏は語る。

 なぜなら、「考える」とはなにかを決めることだからだ。

①と③では、「この情報はグラフ化する意義がある」「メッセージを最も効果的に伝えるには、こういう形式のグラフが最適である」という結論が出ています。これが「考える」ということです。それ以外の部分は「作業」であって「思考」ではありません。(P.35)

 さらに、①と③の工程はササっと決めてしまって、グラフの作成作業に時間を費やしている人も少なくないはずだ。

 しかし、この①と③をないがしろにすると、その後の作業全てがムダになる可能性があるという。

翌日その資料を上司に見せたら「んー、ちょっと図が多すぎるからこのグラフは削りましょう」と言われるかもしれません。もし①をちゃんと考えていたら、「いえ、この数字はグラフで見せる必要があります。このグラフからは、こういうことがわかりますよね? だからグラフとして掲載する効果が大きいのです」と説明できます。(P.36)

 そもそも、しっかり①を考えていたら、作業をする前に上司に「このグラフは必要でしょうか?」と提案できたかもしれない。

 プレゼン資料も同じことだ。内容をしっかり検討して、先に上司に相談していれば「このまま進めていいよ」とか「ここの流れがわかりづらいから、再度考えてみて」と指摘してもらえたかもしれない。

 内容にきちんとOKをもらってから、「見やすいプレゼン資料」にするための作業に入ればいい。

 しかし、深く考えずに「やった感」だけを求めると、中身のないプレゼン資料になり、イチからやり直す羽目になりかねない。

「作業」を「思考」と思い込むのは危険なことなのだ。

「考える時間」を増やして思考力をつける

 しっかり「考える力」を身につけるにはどうすればいいか。

 ちきりん氏は、「考える時間を増やしましょう」とアドバイスする。

 そのために有効な方法は、考える時間を「見える化すること」だという。

 そのための方法として、1日に働いた時間のうち、次の4つのプロセスに何時間ずつ使ったか計算してみることを勧めている。

①情報収集→②分析(加工&グラフ化)→③思考!→④結論の伝達
誰かと会って話を聞いた時間は「情報収集」です。データを表計算ソフトに入力しグラフ化するのは「分析」です。上司や他部署に伝えるため、報告書にしたりメールを書くのは「伝達」の時間ですね。
「考える」「思考する」とは、情報を集める作業でも、その情報の加工やグラフ化の作業でもありません。「集めて加工した情報を、どのように結論につなげるかという決めるプロセス」です。(P.37)

 このように、自分の1日の仕事をプロセスごとに分けることで、「考える」ことに使った時間が明確になる。

 日々、このことを意識し、「考える」時間を確保することで、考える力は確実についてくるというのだ。

「作業」を「思考」と勘違いしない

 今の時代は、ネットを開けば途方もない量の情報があふれている。

 少しでも多く情報を収集することで頭が良くなったような気になるし、作業をすればするほど「仕事した!」という気持ちになりがちだ。

 そういった目の前の「作業」に惑わされることなく、「今からは考える時間だ」と区切ることが、思考力を育てていくことになると、ちきりん氏は教えてくれている。

「じゃあ、『考える』って具体的にどういうことだろう?」と思う人もいるかもしれないが、それについて詳しくは本書に譲ろう。

 思考のための方法や、思考することでなにが見えてくるかなどがわかりやすく説明されているので、ぜひ手に取ってみてほしい。

「考える力」を持つことは、ビジネスパーソンはもちろん、全ての人が生きていく上で自分の身を助けてくれる力となる。

「誰もが身につけておきたい大切な力である」と言えるだろう。