「1日3食では、どうしても糖質オーバーになる」「やせるためには糖質制限が必要」…。しかし、本当にそうなのか? 自己流の糖質制限でかえって健康を害する人が増えている。若くて健康体の人であれば、糖質を気にしすぎる必要はない。むしろ健康のためには適度な脂肪が必要であるなど、健康の新常識を提案する『ケトン食の名医が教える 糖質制限はやらなくていい』(萩原圭祐著、ダイヤモンド社)。同書から一部抜粋・加筆してお届けする本連載では、病気にならない、老けない、寿命を延ばす食事や生活習慣などについて、「ケトン食療法」の名医がわかりやすく解説する。

健康になるために必ず覚えておきたい、食習慣のたった1つの大原則Photo: Adobe Stock

「お腹が空く」とは、どういうことか?

 糖質は、生きていくうえで必要な栄養素です。

 とはいえ、体の要求に従って、空腹感を感じたときにムシャムシャと好きなだけ食べていたら、それこそブクブクと太ってしまうのではと、心配になる人もいるかもしれません。

 そこで考えてみたいのは「お腹が空く」という現象は、一体どういうことなのかということです。これには胃から分泌される、「グレリン」という消化管ペプチドホルモンが関与していることがわかっています*20

*20  Yanagi S, et al. The Homeostatic Force of Ghrelin. Cell Metab. 2018 Apr 3;27(4):786-804. DOI: 10.1016/j.cmet.2018.02.008.

 胃で分泌されたグレリンは、迷走神経(脳神経の一つ)を介して、脳の中枢の食欲中枢に働きます。その結果、「お腹が空いた」という空腹感が生まれるのです。

 そして、空腹が満たされるとドーパミンなどのホルモンが分泌されて快感が生まれ、私たちの食欲は満たされます。

 胃で分泌され食欲を促すグレリン以外にも、消化管で分泌されるホルモンがあります。その中で、小腸から分泌される重要なホルモンが、「GLP─1(グルカゴン様ペプチド1)」です。

 GLP─1は、すい臓に働きかけてインスリン(血液中のグルコースを細胞に送り込む働きをするホルモン)の分泌を促します。それも、小腸が動き出したときだけです。これにより、必要最低限のインスリンの分泌が誘導されるのです*21

*21  Drucker DJ. Mechanisms of Action and Therapeutic Application of Glucagon-like Peptide-1. Cell Metab. 2018 ;27(4):740-756. doi: 10.1016/j.cmet.2018.03.001.

お腹が空いた、美味しかったには、隠れたメカニズムがある

 どうして私たちの体には、このグレリンやGLP─1のようなホルモンが分泌される仕組みが備わっているのでしょうか? 

 それは、非常に単純で、体が食べ物を欲しているからです。

 グレリンが分泌されるのは、体内のエネルギーが減っているサインで、食事から栄養を取り込み、脂肪や筋肉を増やして成長を促すためです*20

 GLP─1は、取り込んだ糖質を、効率よく吸収するために分泌されます。

 実際に、成長期の若い人の場合、グレリンの分泌の際に、成長ホルモンを誘導する作用があることもわかってきました*20

 つまり、「胃からグレリンを出す=お腹を空かしてから、ご飯を食べる」という行為は、健康にとっても大事なサイクルになるのです。

 胃からグレリンを出して、お腹を空かしてからご飯を食べる──。

 それが食事の基本中の基本、大原則なのです。

お腹が空かなければ、無理に食べる必要はない

 一方、高齢になると、だんだんとこのグレリンの分泌が鈍くなることがわかっています。すると「お腹が空く」という感覚がなくなり、食後もドーパミンが出なくなります。空腹感もないし満腹感もないから、認知症の方には「ご飯を食べても覚えていない」ということが起こりうるわけです。

 ということは、「お腹が空いたけれど我慢する」という行為は、体の成長にはよくないことになります。

 たとえば「お腹が空いた!」と普段言っている女の子たちが、ダイエットで食事を抑えようとします。

 でも、本来の体は「成長のための栄養」を求めているのですから、それだとあるべき成長がなされにくくなるわけです。

 食べることを必要以上に抑えるのではなく、もっと体の声に耳を傾けるべきなのです。そして、お腹がいっぱいになったら、その分だけ運動すればいいのです。

 逆に言うと、お腹が空かなければ、無理に食べる必要はありません

 どんなに栄養のある食べ物でも空腹感がないときに食べたのでは、グレリンやGLP─1などの消化管ペプチドが分泌されないので、あまり栄養にはならないのです。

 つまり、「今はお腹いっぱいだからいいわ」とか、「今日はこの辺で結構です」と言えるようになるだけで、糖質制限をしなくても、十分に食べすぎを回避できるように、本来の人間の体はできているのです。

本原稿は、萩原圭祐著『ケトン食の名医が教える 糖質制限はやらなくていい』からの抜粋です。
監修 大阪大学大学院医学系研究科 先進融合医学共同研究講座 特任教授・医学博士 萩原圭祐