日本初のマンション蔵が新機軸で醸す少量仕込みの爽快な地酒

新日本酒紀行「蓬莱鶴」マンションは京橋川に面した地上10階建て Photo by Yohko Yamamoto

 広島城から近い、広島市中心部に残る唯一の酒蔵、原本店。創業1805年の老舗蔵だ。1945年の原爆投下で蔵は全焼。再建して健闘するが、日本酒の消費低迷期に入り苦戦が続く。90年、5代目の逝去を機に酒蔵を廃業し、マンション化する計画が起こる。6代目の原純さんは当時、別の醸造会社に勤務していたが、マンションの地下に醸造所を設け、1人で酒造りをすることを決断。

 面積も天井高もわずかしか確保できず、極少量仕込みの四季醸造が可能なマイクロ酒蔵を設計した。酒造の心臓部である麹室は杉材が多いが、前代未聞のアウトドア用透湿防水素材でテント式麹室を発明。ヒントは、友人の「雪山のテントでコーヒーを沸かしても結露しない」という言葉。メーカーから生地を取り寄せ試作すると、室に最適な条件がそろい、後に酒造機器メーカーが製品化したほどだ。課題は高品質な酒が、どこまで少量仕込みで実現できるかの見極め。苦労の末、95年に日本初のマンション蔵として再出発を果たす。常に新鮮な美酒は、人々を魅了し人気蔵に成長。