米国のインフレは高止まりの気配はあるものの、ピークはつけつつある。一方、ユーロ圏の物価はピークをつけたとは判断しがたい状況にある。その差は金融政策に表れる。FRB(米連邦準備制度理事会)は利上げ幅を縮小したが、ECB(欧州中央銀行)は当面は縮小しない見通しだ。それは為替相場動向に反映される。(みずほ銀行チーフマーケット・エコノミスト 唐鎌大輔)
賃金・物価スパイラルの可能性を
否定しないラガルドECB総裁
米国のインフレ懸念がにわかに再注目される中、従前から米国より強いと目されてきたユーロ圏のインフレ懸念も相変わらず予断を許さない状況にある。
2月15日、ラガルドECB(欧州中央銀行)総裁は欧州議会で「全体として、物価圧力は依然として強く、基調的なインフレ率はなお高水準」と証言している。
これに続けて「高インフレが賃金に転嫁されるリスクは排除できない。現時点では賃金・物価スパイラルの明らかな兆候は出ていないが、明らかに発生する可能性があり、物価上昇の要因になる」とも述べ、「エネルギーから賃金へ」という最も恐れるべき経路に警戒を隠していない。
下のグラフに示すように、HICP(ユーロ圏消費者物価指数)は総合ベースのピークアウトとコアベースの加速が併存する状況にある。制御不能な賃金・物価スパイラルが始まっている証拠はないが、ラガルド総裁の言葉を借りれば「明らかに発生する可能性」は認められる。
次ページ以降、ユーロ圏のインフレや金融環境を検証しつつ、今後の金利動向、為替動向を分析していく。