シリアの国旗シリアの国旗 Photo:123RF

トルコ・シリア大地震による死者が5万人を超えた。報道されているシリアの死者数6000人は、実際はもっと多いかもしれない。というのもシリアは2011年以降、内戦が続く中での大地震であり、被害の拡大が予想されるからだ。複雑な政況を背景に、被災者に支援物資が行き届いていないという。他方、シリアは世界史的に重要な地で、ローマ帝国やキリスト教、イスラム教に関する遺跡が多くある。本稿では、シリアの内戦と今回の地震について整理した後、シリアの歴史上の役割について解説する。 (著述家/国際公共政策博士 山中俊之)

地中海の風光明媚なリゾートもがれきの山に

 2023年2月6日、トルコ南部とシリア北部を大地震が襲った。シリア北部に広範囲にわたる被災地は、人口160万人を超える大都市アレッポや、地中海に面したリゾート地のラタキアを抱える。

 筆者は以前、ラタキアを訪れたことがある。あの風光明媚(めいび)なマリンリゾートが被災し、がれきの山となったことには本当に心が痛む。被災者や犠牲になった方々には、心より哀悼の意を表したい。

 今回の大地震に関して、他の地域にはない、シリアに特筆すべき視点がある。2011年から続く内戦の影響だ。

 中東や北アフリカで連鎖した民主化運動、「アラブの春」を機に、シリアに内戦が勃発した。シリアの領土は、首都ダマスカスを中心とするアサド政権支配地域と、反体制派が支配する複数の地域に分かれ、戦闘が続いている。

 その結果、1100万人を超える難民が発生。その規模から、“第2次世界大戦後、最悪の人道危機”といわれる。

 難民と聞くと、国境を越えて他国に避難した人とイメージするだろう。しかし、シリア難民の場合、過半数の670万人が国内での避難生活を強いられている。内戦で家や家族を失った人が、今回の地震で再び大切なものを失っている。悲劇の連鎖が起きている。

 私事だが筆者は、1995年の阪神・淡路大震災で実家が全壊し、肉親を亡くした。悲劇が幾度も襲い掛かる状況を想像すると、筆舌に尽くし難い。

 そうした中、まさに人道的な大問題が起きてしまった。内戦の影響で救援物資の配給が困難になっているそうだ。反体制派地域に救援物資を配給することは、アサド政権も了承している。が、反体制派がアサド政権からの配給に反対するなど混迷が続いているという。

 また、シリアは地震の経験が多くなかったことも、被害が拡大している原因だろう。トルコはしばしば地震が起きているのに対して、シリアは昔、アレッポ大地震を経験しているものの、それは1138年のこと。シリア人の友人いわく、「これまでシリアにはあまり大きな地震がなく、人々は備えができていなかった」という。

次ページでは、シリアの歴史上の役割について、世界96カ国で学んだ元外交官の筆者が解説します。(1)ローマ帝国の出世コースだったシリア属州、(2)シリアなくしてキリスト教の発展なし、(3)巨大なイスラム帝国の首都として栄えた、の3トピックから、シリアの世界史的な存在意義について学び直してみませんか?