【最新の認知症治療を実践する脳のカリスマが30年超の長寿研究から導いた幸せな生き方】かつて100歳ブームを巻き起こした『100歳までボケない101の方法 脳とこころのアンチエイジング』の著者で医学博士・白澤卓二が、人生100年時代が現実になった今をよく生きる方法をまとめた『長寿脳──120歳まで健康に生きる方法』が完成。現在の脳のパフォーマンスを上げて、将来寝たきりや認知症にならずに長寿を目指し、人間の限界寿命とされる120歳まで生きる方法を提示します。
自然塩がおいしくて健康にいい理由
高血圧対策として減塩を意識している人は多いと思います。みなさんはどのような対策をしていますか。減塩しょうゆや減塩みそを使う? 塩辛いものを食べないようにする?
それらの努力は塩を減らす対策にはなっているかもしれませんが、落とし穴があります。塩を減らした分は何で補われているのかという点です。
単純にしょうゆを作る際に塩の量を減らしたなら問題ありませんが、塩を減らした分を何か別のもの、例えば合成調味料や化学的な添加物などで穴埋めしていたとしたら、塩は減らせてもほかのものから悪影響があるかもしれません。カロリーゼロの甘い炭酸飲料などが、砂糖を使わずに人工甘味料を使っているのと同じ理屈です。
また、自宅で使う塩の量を厳しく制限したとしても、加工食品には多くの塩が使われています。弁当に入っている揚げ物にソースやケチャップ、サラダや生野菜にドレッシングなどをかければそこにも塩が含まれています。塩分の摂取量を減らすには、加工品はできるだけ避けて、自分で調理することがポイントです。
とがった塩辛さがなくて塩けがまろやか
使う塩はだんぜん「自然塩」がおすすめです。
まず味の点で自然塩と塩化ナトリウム99%以上の精製塩を比べると、自然塩は指先にとってなめてもとがった塩辛さがなくて、塩けがまろやか。私は日本だけでなく世界各地の自然塩を取りそろえて使ってみましたが、産地や製法によって微妙に味わいが異なります。それに対して精製塩はとがった塩辛さしか感じられません。
この味の違いは成分の違いからきています。自然塩にはナトリウム以外にもさまざまなミネラルが含まれていて、体が必要としている塩をバランスよくとれるようになっています。体にいいのは海水と同じミネラルバランスの自然塩で、おおよその成分量は以下の通りです。
塩化ナトリウム 78%
塩化マグネシウム 9%
硫酸マグネシウム 6%
硫酸カルシウム 4%
これまで精製塩を使っていたなら、自然塩に変えるだけで塩の摂取量を減らすことができます。さらに自然塩にはナトリウムと相反する働きをするカリウムが含まれているものがあります。過剰にとると血圧が上がるナトリウムと、血圧の上昇を抑えるカリウムを同時にとることになるので、血圧が上がりにくくなります。
世界各地の塩を使い切って、今、私の定番となっているのは「わじまの海塩」です。よくある自然塩では、釜炊きといって釜に入れた海水を煮立てて水分を蒸発させて精製することが多いのですが、この塩は、海水の上から40度未満の熱と風を当てて時間をかけて結晶化させています。この結晶化の方法が大事。結晶化させるときの条件で、マグネシウムの含有量にかなり差が出るのです。また、原料としている海水に含まれる重金属や鉛、ヒ素、水銀、カドミウムといった有害物質の検査結果を公開していて安心できます。
もうひとつこの塩を選んでいる最大の理由は、私がこの塩の生産者さんをよく知っていて、こだわりを持って作っていることを知っているということです。
これは塩に限らず、口に入るものすべてに言えることです。信頼できる人が作ったものは安心して体に入れられます。
本原稿は、白澤卓二著『長寿脳──120歳まで健康に生きる方法』からの抜粋です。この本では、科学的に脳を若返らせ、寿命を延ばすことを目指す方法を紹介しています。(次回へ続く)
監修 お茶の水健康長寿クリニック院長・医学博士・医師 白澤卓二
1982年千葉大学医学部卒業後、呼吸器内科に入局。1990年同大学院医学研究科博士課程修了。現在、お茶の水健康長寿クリニック院長。
白澤卓二(しらさわ・たくじ)
医学博士
1958年神奈川県生まれ。1982年千葉大学医学部卒業後、呼吸器内科に入局。1990年同大学院医学研究科博士課程修了。東京都老人総合研究所病理部門研究員、同神経生理部門室長、分子老化研究グループリーダー、老化ゲノムバイオマーカー研究チームリーダーを経て、2007年より2015年まで順天堂大学大学院医学研究科加齢制御医学講座教授。
2017年よりお茶の水健康長寿クリニック院長、2020年より千葉大学予防医学講座客員教授就任。国際予防医学協会理事長、日本アンチエイジングフード協会理事長、アンチエイジングサイエンスCEOも務める。
専門は寿命制御遺伝子の分子遺伝学、アルツハイマー病の分子生物学、アスリートの遺伝子研究。
【著者からのメッセージ】
科学的に脳を若返らせ、寿命を延ばす人生戦略
2022年9月発表の厚生労働省の統計によると、100歳以上の人口が初めて9万人を超えました。最高齢は115歳です。
私が2010年に文春新書『100歳までボケない101の方法 脳とこころのアンチエイジング』(文藝春秋)という本を上梓したときは、100歳以上の人口は4万4449人でした。この12年で、2倍以上に増えたことになります。
12年前には100歳を超えられるのはごく限られた一部の人だと思われていましたので、『100歳までボケない~』という本のタイトルは世の中に一石を投じたと自負しています。
その後、「人生100年時代」というフレーズが当たり前のように使われるようになりました。100歳を超えて活躍している人たちに注目が集まって、人生100年時代が現実味を帯びてきました。
そして今では、「人生120年」という話もまことしやかに囁かれています。100歳まで生きられるようになったのなら、次は120歳だ! というわけです。
120年の根拠になっているのが、「人の細胞にあるテロメアという部分の寿命が120年だから、うまくすれば120年生きるのは可能だ」という説です。私はこの説には少し違和感を持っていますが、脳の寿命から考えると120年は可能だと思います。
とはいえ、体を120年も元気なまま維持するのは、かなり難しいだろうと思っていました。そんなときに、
「120歳まで健康に生きるにはどうしたらいいですか?」
と問われたのです。
100年生きるのが当たり前の時代になったら、脳と体が健康なまま、もっと長く生きたいと思うのは自然なことかもしれません。
私は東京都老人総合研究所の研究員として、順天堂大学大学院の加齢制御医学講座の教授として、30年以上超高齢者の研究を重ねてきました。100歳を超えた2000人以上の健康に関するデータを取り、聞き取り調査も重ねてきました。
現在は臨床医となって、これまでに知り得た膨大なエビデンスから現実的な方法をすくいとって、患者さんの診療にあたっています。
私が2017年に開院したお茶の水健康長寿クリニックでは、これまでの研究成果を最大限に活用して、アルツハイマー病、認知症、自閉症、統合失調症やアスペルガー症候群などに対して、解毒療法や神経再生治療を組み合わせたプログラムを提供し、脳の治療を行っています。
そこで私は考えました。これまでの膨大な研究成果と、目の前にいる患者さんにアドバイスしていることを組み合わせて、120歳という壁に全力で立ち向かえば、脳も体も健康なまま120歳まで生きられる可能性があるのではないかと。
この本では、その可能性を現実にするための手立てをさまざまな側面から解説し、自信を持って言えることだけを、書き尽くしています。
今のところ120歳を超えた人の記録はありません。
フランス人のジャンヌ・ルイーズ・カルマンさんという女性がギネス世界記録として「122年164日生きた」とされていますが、戸籍の問題から、現在ではこの記録に懐疑的な研究者が多く、真相はわかっていません。2022年4月に亡くなられて世界歴代2位に認定された日本人の田中カ子さんは119歳でした。出生証明が確認できている世界最高齢はいまだ120歳に到達していないのです。それでも、「120歳まで健康に生きる」という強い意志を持ち、現代科学と人の叡智を駆使して、脳と体のどちらもが健やかな状態でいられるように行動すれば、これから数年後には、120歳まで生きる人が次々に出てくるかもしれません。
人生100年どころか、120年と言われはじめた今、120歳まで自分らしく生きられるかどうかは、これからの数十年の日々の暮らしにかかっています。
今40代、50代の人はこれからが勝負です。70代、80代でもあきらめることはありません。まだ先は長いです。
せっかく長生きできる時代に生まれたのですから、健やかな脳と体を保って、最後まで自分らしく生きようではありませんか