『独学大全──絶対に「学ぶこと」をあきらめたくない人のための55の技法』著者の読書猿さんが「勉強が続かない」「やる気が出ない」「目標の立て方がわからない」「受験に受かりたい」「英語を学び直したい」……などなど、「具体的な悩み」に回答。今日から役立ち、一生使える方法を紹介していきます。
※質問は、著者の「マシュマロ」宛てにいただいたものを元に、加筆・修正しています。読書猿さんのマシュマロはこちら

「富裕層とはどこで、何をしていて、どんな生態系なのか」を知る方法とは?Photo: Adobe Stock

[質問]
 はじめまして、不動産系の会社でイベント企画を生業にしています。

 主幹事業である不動産の賃貸・売買の顧客の多くが富裕層を対象にしているのですが、正直どこに富裕層がいるのか全く分かりません。

 格差がドンドン広がっていると言われますが、そもそも富裕層の存在が実態がつかめず、誰が顧客なのかわからない、考えてみれば気味の悪い商売をしているものだなとつくづく思います。

 富裕層、とくに超富裕層と言われる人々がどこで、何をしていて、どんな生態系なのか、さらには歴史的にどんなふうに生態系が変化してきたのかを独自に探求してみたいのですが、何から手を付けようか考えあぐねています。

 参考となる書籍などありましたら、教えてください。

「富裕層の本」というような一冊ではなく、まずは「誰かが先に調べていないか」を調べます

[読書猿の回答]
 いくつか文献とその見つけ方をご紹介しましょう。

 まず「富裕層」について誰かが先に調べていないかを調べます。

 図書館へのレファレンス質問と解答をまとめた「レファレンス協同データベース」で「富裕層」について検索してみました。

「調べ方マニュアル」に該当する、次のものが、探しものスタートに役立ちそうです。

「調べ方マニュアル>件名:富豪 をもつ資料」(香川県立図書館)
https://crd.ndl.go.jp/reference/modules/d3ndlcrdentry/index.php?page=man_view&id=2000015679

 この中に出てくる

>・日本のお金持ち研究 Who are the rich? 橘木俊詔/著 日本経済新聞社 2005.3
>・新・日本のお金持ち研究 暮らしと教育 橘木俊詔/著 日本経済新聞出版社 2009.1

 が基本文献です。

 お金持ちの歴史については、

>・カネが邪魔でしょうがない(新潮選書)明治大正・成金列伝 紀田順一郎/著 新潮社 2005.7

 がよみやすいでしょう。

 またアメリカのお金持ちが対象ですが

>・となりの億万長者 成功を生む7つの法則 トマス・J.スタンリー/著 早川書房 2013.8

 では、冒頭、「億万長者」を調査するのにどこを探せばよいか、最初は分からず、いろいろ工夫する話が出てきます。

 たとえばビバリーヒルズのような有名なお金持ちの街の住民は、数年で引っ越す(つまり金持ちになって越してくるものの、すぐにお金持ちでなくなる)者も多く、本当のお金持ちは見つからなかった、という話が出てきます。

 もうひとつ、取り扱っているのは富裕層に限りませんが、富裕層も含んだ人々の消費活動を調べる資料を集めた

「調べ方マニュアル>消費者動向を調べる」
https://crd.ndl.go.jp/reference/modules/d3ndlcrdentry/index.php?page=man_view&id=2000012779

 も役立ちそうです。

 ここで使った考え方は、「富裕層」だけを扱った資料がない場合でも、上位のカテゴリーを考えることで、資料の一部に「富裕層」を扱った資料を見つけること、『独学大全』では「シネクドキ探索」という技法として紹介したものです。

 上の2つから、学ぶべきは「富裕層」というキーワードで探すより、「富豪」や「高額所得者」というキーワードで探したほうが良い結果がでそうではないか、という点です。

 よさげなキーワードを探すには国立国会図書館典拠データ検索・提供サービスが使えます。

 ここに「富裕層」を入れてもヒットしませんが、「富豪」を検索してみると

>・上位語「有産階級」
>・関連語「高額所得者」
>・分類記号 361.83(NDC10);361.83(NDC9);EC171(NDLC)

 などが出てきます。

 国会図書館オンラインで検索できる「件名検索」ボタンもあるので、ここから更に探しものを展開することもできます。

 件名については「第3回 見たことも、聞いたこともない本を見つけるワザ――件名の本当の使い方(在野研究者のレファレンス・チップス)」か、この連載を書籍化した『調べる技術』を御覧ください。

 こうした探しものを経て「どこに富裕層がいるのか」という問いにストレートに答えた論文にたどり着きました。

>梅原英治(2018)「億万長者のいる街、いない街:申告所得税データから見た高額所得者の地域分布」

 論文内で紹介されている先行研究やデータ源についても参考になるでしょう。

 7つにわかれていますが、このリンクから読むことができます。