「1日3食では、どうしても糖質オーバーになる」「やせるためには糖質制限が必要」…。しかし、本当にそうなのか? 自己流の糖質制限でかえって健康を害する人が増えている。若くて健康体の人であれば、糖質を気にしすぎる必要はない。むしろ健康のためには適度な脂肪が必要であるなど、健康の新常識を提案する『ケトン食の名医が教える 糖質制限はやらなくていい』(萩原圭祐著、ダイヤモンド社)。同書から一部抜粋・加筆してお届けする本連載では、病気にならない、老けない、寿命を延ばす食事や生活習慣などについて、「ケトン食療法」の名医がわかりやすく解説する。

【名医が教える】ケトン食のヒントになったイヌイットの伝統的な食生活とは?Photo: Adobe Stock

総摂取エネルギーの40%が脂質なのに、
なぜイヌイットは健康を維持できるのか?

 今回からしばらくは、健康長寿のカギとなるケトン食やケトン体の働きについて説明していきます。まず初めに、なぜこの食事療法が注目されるようになってきたのか、その背景からお伝えしましょう。

 あなたは、イヌイットという先住民族をご存じでしょうか。シベリアやアラスカやカナダ、グリーンランドなどの北の氷の大地に住む人々ですが、彼らの食事にはほとんど野菜がありません。

 食べられるものは、ほとんどアザラシか魚で、総摂取エネルギーの40%が脂質という、脂に偏った生活を余儀なくされていました。そんな偏った食生活ですからイヌイットの人々は、健康状態がかなり悪いのではないかと考えられていました。

 そこで1970年代に疫学的な調査が行われたのですが、驚くべきことがわかりました。比較的近隣に住むデンマーク人と比べ、イヌイットの血中における脂質の割合は、非常に低く抑えられていたのです。

 さらに、心筋梗塞や糖尿病などの成人病に加え、がんの発生率も非常に低いことがわかりました。
原因は全く不明でしたが、当初は、特殊な生活習慣と遺伝的背景にあると考えられていました。

食生活の欧米化で、がんにかかる人が増えた

 ところが、そんなイヌイットの食生活に、欧米人が小麦を持ち込みました。

 いわゆる食が欧米化し、40年以上にわたり穀物中心の食事をとるようになると、途端に血中の脂肪が増え、肥満になり、生活習慣病になる人が増えました。

 そして大腸がん、肺がん、乳がん、前立腺がんなど、いわゆる欧米型のがんにかかる人が驚くほど増加したのです。

 一方、伝統的な食習慣を守っているイヌイットの人たちの間では、がんの発生率は、それほど高くはなかったのです。

 これは衝撃的な結果でした。どうやら、がんを増やしているのは、欧米型の食習慣だと、はっきりデータが示したからなのです。

 では、イヌイットの人たちの元々の食事は、どういったものなのか?

 穀物は食べないことから、低炭水化物で、アザラシの肉か魚由来の脂質が中心、つまり、低炭水化物高脂肪食である、現在のケトン食に類似の食事内容だったのです。

 そこでにわかに、がん治療においてケトン食が注目されることになったというわけです。

萩原圭祐(はぎはら・けいすけ)
大阪大学大学院医学系研究科 先進融合医学共同研究講座 特任教授(常勤)、医学博士
1994年広島大学医学部医学科卒業、2004年大阪大学大学院医学系研究科博士課程修了。1994年大阪大学医学部附属病院第三内科・関連病院で内科全般を研修。2000年大学院入学後より抗IL-6レセプター抗体の臨床開発および薬効の基礎解析を行う。2006年大阪大学大学院医学系研究科呼吸器・免疫アレルギー内科助教、2011年漢方医学寄附講座准教授を経て2017年から現職。2022年京都大学教育学部特任教授兼任。現在は、先進医学と伝統医学を基にした新たな融合医学による少子超高齢社会の問題解決を目指している。
2013年より日本の基幹病院で初となる「がんケトン食療法」の臨床研究を進め、その成果を2020年に報告し国内外で反響。その方法が「癌における食事療法の開発」としてアメリカ・シンガポール・日本で特許取得。関連特許取得1件、関連特許出願6件。
日本癌治療学会、日本臨床腫瘍学会、日本臨床栄養代謝学会(JSPEN)などの学会でがんケトン食療法の発表多数。日本内科学会総合内科専門医、内科指導医。日本リウマチ学会リウマチ指導医、日本東洋医学会漢方指導医。最新刊『ケトン食の名医が教える 糖質制限はやらなくていい』がダイヤモンド社より2023年3月1日に発売になる。