「1日3食では、どうしても糖質オーバーになる」「やせるためには糖質制限が必要」…。しかし、本当にそうなのか? 自己流の糖質制限でかえって健康を害する人が増えている。若くて健康体の人であれば、糖質を気にしすぎる必要はない。むしろ健康のためには適度な脂肪が必要であるなど、健康の新常識を提案する『ケトン食の名医が教える 糖質制限はやらなくていい』(萩原圭祐著、ダイヤモンド社)。同書から一部抜粋・加筆してお届けする本連載では、病気にならない、老けない、寿命を延ばす食事や生活習慣などについて、「ケトン食療法」の名医がわかりやすく解説する。

【名医が教える】今、医学の世界で注目されている、ケトン体の驚きの効果とは?Photo: Adobe Stock

ケトン体は、もう一つのエネルギー源

 では、そもそも、ケトン体とは何なのでしょうか?

 その前に、栄養についての基本的な話を整理しておきましょう。

 普段、私たちは、毎日ご飯を食べて、エネルギー産生栄養素である炭水化物(糖質)、たんぱく質、脂質をとって生活しています。

 ですから、お米やパンなどの炭水化物が、すぐにエネルギーになっている印象があるので、炭水化物をとらないと生きていけないと思っていませんか?

 では、実際に、ご飯を食べられなかったら、すぐに死んでしまうのか?

 そんなことはありません。実際に何日も遭難してご飯を食べられず、やせ衰えた人たちが助かっているニュースをしばしば耳にすると思います。

 では、なぜ助かっているのか?

 それは、口から摂取する炭水化物由来のエネルギー源であるブドウ糖(グルコース)に代わって、肝臓でつくり出されたケトン体がもう一つのエネルギー源として活躍してくれるからです(下図)。

【名医が教える】今、医学の世界で注目されている、ケトン体の驚きの効果とは?摂食時はブドウ糖(グルコース)をエネルギーに利用、空腹時はケトン体をエネルギーに利用。 イラスト:坂木浩子

 ケトン体をつくり出す機能は、人間だけではなく、野生の動物も普通に体の中に備えています。というのも、野生動物は毎日、誰かがご飯をつくってくれるわけではありません。食べ物にありつけず、飢餓状態が数日続くようなことは必ずあります。

 そんなときに体に蓄えた脂肪から脂肪酸を取り出し、それを肝臓内でケトン体に変えてエネルギーにするメカニズムが働くのです。

 ケトン体とは、βヒドロキシ酪酸、アセト酢酸、アセトンからなります。アセトンは呼吸で排出されるので、体の中で主に働くのは、βヒドロキシ酪酸、アセト酢酸になります。

 ケトン体とは、「脂肪酸」と「たんぱく質」をもとに肝臓内のミトコンドリアで合成してつくられます。これが血管を通して筋肉や脳に運ばれ、身体のその他の組織の細胞内のミトコンドリア(細胞小器官)によってエネルギーに変換されます。

 これまで医療の現場では、ケトン体はどちらかと言えば、悪者扱いされてきました。

 たとえば、胃腸炎になって、お腹が痛くなって下痢をしているときは、必ずケトン体の数値が上がっています。

 また、糖尿病治療でインスリンを使っている患者さんが脱水症状を起こし、意識が低下する「糖尿病性ケトアシドーシス」という症状においては、まさにケトン体がその元凶だと思われてきました。

 しかし現在、ケトン体の働きにはもっと違ったよい側面があることがわかってきています。医学の世界で大変注目されている古くて新しい存在なのです。

 たとえば、ケトン体であるβヒドロキシ酪酸によって、以下の効果が確認されています。

 ・大腸がんが抑制される(Nature2022)
 ・糖尿病による腎障害に効果がある(Cell Metabolism 2020)
 ・てんかんの発作軽減効果がある(Science 2015)
 ・抗炎症効果がある(Nature Medicine 2015〉
 ・サーカディアン(概日)リズムを改善する(Cell Metabolism 2017)

 気が付くと科学の一流誌に、続々とその研究成果が報告されています。

萩原圭祐(はぎはら・けいすけ)
大阪大学大学院医学系研究科 先進融合医学共同研究講座 特任教授(常勤)、医学博士
1994年広島大学医学部医学科卒業、2004年大阪大学大学院医学系研究科博士課程修了。1994年大阪大学医学部附属病院第三内科・関連病院で内科全般を研修。2000年大学院入学後より抗IL-6レセプター抗体の臨床開発および薬効の基礎解析を行う。2006年大阪大学大学院医学系研究科呼吸器・免疫アレルギー内科助教、2011年漢方医学寄附講座准教授を経て2017年から現職。2022年京都大学教育学部特任教授兼任。現在は、先進医学と伝統医学を基にした新たな融合医学による少子超高齢社会の問題解決を目指している。
2013年より日本の基幹病院で初となる「がんケトン食療法」の臨床研究を進め、その成果を2020年に報告し国内外で反響。その方法が「癌における食事療法の開発」としてアメリカ・シンガポール・日本で特許取得。関連特許取得1件、関連特許出願6件。
日本癌治療学会、日本臨床腫瘍学会、日本臨床栄養代謝学会(JSPEN)などの学会でがんケトン食療法の発表多数。日本内科学会総合内科専門医、内科指導医。日本リウマチ学会リウマチ指導医、日本東洋医学会漢方指導医。最新刊『ケトン食の名医が教える 糖質制限はやらなくていい』がダイヤモンド社より2023年3月1日に発売になる。