「1日3食では、どうしても糖質オーバーになる」「やせるためには糖質制限が必要」…。しかし、本当にそうなのか? 自己流の糖質制限でかえって健康を害する人が増えている。若くて健康体の人であれば、糖質を気にしすぎる必要はない。むしろ健康のためには適度な脂肪が必要であるなど、健康の新常識を提案する『ケトン食の名医が教える 糖質制限はやらなくていい』(萩原圭祐著、ダイヤモンド社)。同書から一部抜粋・加筆してお届けする本連載では、病気にならない、老けない、寿命を延ばす食事や生活習慣などについて、「ケトン食療法」の名医がわかりやすく解説する。

【名医が教える】なぜケトン食は、身体と健康に良い効果をもたらすのか?Photo: Adobe Stock

ケトン食は、人間が持っているレジリエンス(回復力)を高める

 ここまでの話をまとめると、糖質とケトン体の太陽と月のような関係を利用すれば、ケトン体によって老化細胞による炎症は抑えられ、その結果、自然と体は回復し、がんや難病の人たちが元気を取り戻していくことにつながっていきます。

 健常者であれば、アンチエイジングや、さらなる健康増進が期待できます。

 次に、ケトン食による様々な病気の治療効果について述べておきます。

難治性てんかん、パーキンソン病、認知症

 先述したようにケトン食というのは、医聖ヒポクラテスが生きた古代ギリシャの頃に実施された絶食療法をもとに、てんかんの治療のために開発された治療法です。

 ですから、抗てんかん薬で治療が難しい患者さんには、ケトン食が通常の医療として応用されています。

 パーキンソン病においては、神経内科医が評価したところ、パーキンソン病の知的機能や思考、抑うつ、意欲などに、ケトン食が特に効果があったことが報告されています。

 さらに認知症の世界でも、ケトン食は期待されています。

 まだ脳の神経細胞が、元の状態に戻る可能性のある段階を軽度認知障害(MCI:Mild Cognitive Impairment)と呼びます。軽度認知障害の場合は、ケトン食療法によって、認知機能の改善が認められたことが報告されています。

 その他にも、多発性硬化症という国の特定疾患にも指定される神経難病においても、ケトン食療法の効果が期待されています。ケトン食は、神経系においては、とても有力な選択肢で、今後さらなる研究が必要な分野だと思われます。

腎機能障害

 糖尿病性腎障害は重大な合併症ですが、腎臓におけるグルコースの再吸収を阻害するSGLT2阻害薬によって、腎機能が維持されることが示され、その効果は、SGLT2阻害薬によるケトン体の誘導であることが明らかになっています。

 私たちも、がんケトン食療法に参加した患者さんのデータの分析で、「腎機能が維持される」ことを血液中のクレアチニンデータの推移で示しています。

 つまり、ケトン食を用いてケトン体の生成を促すことは、腎機能を維持する治療法になりうるのです。

脂肪肝・非アルコール性肝障害(NAFLD)

 肝臓の機能に関しては、健診でもよく調べられている検査項目であるAST、ALP、γ─GTPなどの数値が、わかりやすい指標になるでしょう。お酒をよく飲む人なら、健診結果を気にしていると思います。これらの数値が上がってくる場合、脂肪が肝臓に沈着し、脂肪肝という病気になっていることが想定されます。

 最近の研究では、ケトン食は、以前から問題視されていた内臓脂肪の沈着を改善し、脂肪肝の治療にも効果が期待されています。

 逆に、皮下脂肪が少ないやせ型の体型の人でも、ケトン体の誘導が起こらなくなると、内臓脂肪の沈着が進み、ケトン体が抑制するはずの炎症や老化が進む可能性もあります。私たちはケトン食、ケトン体という観点から、脂肪に対する認識を大きく変える必要があります。

がん

 がん治療についての応用は、とても期待されています。

ケトン体は体内を巡って、
体のレジリエンスを誘導する

 ケトン体は、体の中を巡ってご用聞きのように活動して、炎症を改善し、エネルギーが足りなければ補う働きをします。私たちが休息し、副交感神経が活動する夜間の寝ている間に、この働きが行われます。

 これは、実は特別な医療の効果ではなく、人間がもともと持っている体の働きなのです。私は、治療において、患者さんのレジリエンス(回復力)を大切にしています。一般的には、レジリエンスという言葉は、心に焦点が当たっている印象があると思いますが、ケトン食、ケトン体は、体のレジリエンスを誘導していると考えられます。

 ケトン食の導入は、管理栄養士さんの協力があれば、決して難しい話ではありません。工夫して、食事内容を見直し、普段、私たちが食べてきたものでまかなえるのです。

 人間がもともと持っているレジリエンス(回復力)を生かす話なのです。ケトン食の導入を、今後、様々な分野の専門家の医師に検討していただきたいと思っています。

萩原圭祐(はぎはら・けいすけ)
大阪大学大学院医学系研究科 先進融合医学共同研究講座 特任教授(常勤)、医学博士
1994年広島大学医学部医学科卒業、2004年大阪大学大学院医学系研究科博士課程修了。1994年大阪大学医学部附属病院第三内科・関連病院で内科全般を研修。2000年大学院入学後より抗IL-6レセプター抗体の臨床開発および薬効の基礎解析を行う。2006年大阪大学大学院医学系研究科呼吸器・免疫アレルギー内科助教、2011年漢方医学寄附講座准教授を経て2017年から現職。2022年京都大学教育学部特任教授兼任。現在は、先進医学と伝統医学を基にした新たな融合医学による少子超高齢社会の問題解決を目指している。
2013年より日本の基幹病院で初となる「がんケトン食療法」の臨床研究を進め、その成果を2020年に報告し国内外で反響。その方法が「癌における食事療法の開発」としてアメリカ・シンガポール・日本で特許取得。関連特許取得1件、関連特許出願6件。
日本癌治療学会、日本臨床腫瘍学会、日本臨床栄養代謝学会(JSPEN)などの学会でがんケトン食療法の発表多数。日本内科学会総合内科専門医、内科指導医。日本リウマチ学会リウマチ指導医、日本東洋医学会漢方指導医。最新刊『ケトン食の名医が教える 糖質制限はやらなくていい』がダイヤモンド社より2023年3月1日に発売になる。