「1日3食では、どうしても糖質オーバーになる」「やせるためには糖質制限が必要」…。しかし、本当にそうなのか? 自己流の糖質制限でかえって健康を害する人が増えている。若くて健康体の人であれば、糖質を気にしすぎる必要はない。むしろ健康のためには適度な脂肪が必要であるなど、健康の新常識を提案する『ケトン食の名医が教える 糖質制限はやらなくていい』(萩原圭祐著、ダイヤモンド社)。同書から一部抜粋・加筆してお届けしている本連載。読者からは「こんなの知らなかった」「エビデンスにもとづいているので信頼できる」「ケトン体とは何かがよくわかった」「健康のためには食事が重要であることが理解できた」などの声が多数寄せられている。今回は、福岡県飯塚市にある飯塚病院 漢方診療科の吉永亮先生に、本書の感想やおすすめポイントなどについて話を聞いた。

【名医が教える】糖質制限でお米を食べないことから起こる、重大な健康への悪影響とは?Photo: Adobe Stock

地域医療の現場で実感した
漢方薬の効果

――そもそも吉永先生と萩原先生がお知り合いになったのは、どういうきっかけだったのでしょうか。

吉永 亮(以下、吉永) 7~8年前、東洋医学会の関西支部例会という学会がありまして、そこで私が「総合診療と漢方」というセッションで発表したのが最初でした。萩原先生はその座長をされていたというご縁です。その後、5年ほど前に福岡県飯塚市で「リウマチと漢方」という講演会がありまして、そこで萩原先生が講演され、その翌日に萩原先生が飯塚病院の漢方診療科に見学に来られた際に、院内を案内をしたりとかですね。漢方つながりです。

――吉永先生は今、飯塚病院の漢方診療科に勤務されているわけですが、漢方を専門にされようと思われたきっかけは、なんだったのですか。

吉永 亮(よしなが・りょう)吉永 亮(よしなが・りょう)
飯塚病院 漢方診療科 医師
1978年福岡県生まれ。2004年3月自治医科大学卒業。2004年飯塚病院で初期臨床研修を経て、福岡県内の離島・山間地の診療所で地域医療に従事。2013年4月より飯塚病院漢方診療科で勤務。2019年医学博士(自治医科大学)。地域医療時代に漢方、東洋医学に興味を持ち、漢方の外来研修で漢方を学びながら地域医療を行う。
現在は漢方専門医として働きながら、漢方の教育やプライマリ・ケア領域への発信に携わっている。日本内科学会認定内科医、総合内科専門医。日本東洋医学会漢方専門医、指導医、学術教育委員。日本プライマリ・ケア連合学会プライマリ・ケア認定医・家庭医療指導医。著書に『あつまれ!! 飯塚漢方カンファレンス 漢方処方のプロセスがわかる』(南山堂)がある。

吉永 私も初めから漢方を専門にしようとは思っていなかったです。ただ、私は自治医科大学(僻地医療と地域医療の充実を目的に設立された大学)卒なので地域医療に従事しないといけない立場にありました。離島などの診療所に勤務することが予想できたので、そうした所に行くのなら漢方を使えたほうがいいだろうという思いがありました。それで自分の専門としたい分野に週1回の研修日をもらえました。たまたま初期臨床研修をやっていた飯塚病院に漢方診療科があったので、ここで漢方を勉強しようと思い地域医療をしながら週1回、漢方外来に通って指導医の先生から学びました。

――実際に、漢方は現場でかなり役に立ちましたか。

吉永 そうですね。福岡県の離島や山間部の診療所に3年間ずつ行ったのですが、漢方は自分の想像以上に有効なことがわかりました。患者さんにもとても喜ばれるので「これはおもしろいなぁ」と思ってさらに学んでいったという感じです。

――当時のことで、何か印象に残るエピソードなどはありますか。

吉永 離島の診療所でのことですけど、ご高齢のおばあちゃんがご主人が緊急入院されたということで、毎日船とバスで病院にお見舞いに行って、それで「体が疲れてきつい」と受診されたことがありました。いわゆる看病疲れで現代医学では特に治療法はないのですが、そこで元気を補う作用のある補中益気湯(ほちゅうえっきとう)という漢方を処方したところ、非常に効いて喜ばれたことがありました。

 あとは風邪とか、足がつるとか、腰が痛いとかですね、そういうよくある症状に対してもご高齢の方が多いので、なかなか一般の鎮痛剤を副作用のため使いづらい状況で、漢方を使うことでその痛みが取れたり、症状が軽くなることが多く、改めて役に立つなと実感できました。

 それで義務年限(地域医療に従事する期間)の9年が経って、「漢方を専門的に深く勉強したい」と思い、2013年からは飯塚病院の漢方診療科で勤務を始めて、ちょうど10年が経ったところです。

ケトン食は、ヒポクラテスの時代から
使われていた治療法

――今回、『糖質制限はやらなくていい』の本をお読みいただいたと思いますけれども、率直なご感想はいかがでしょうか。

吉永 正直、ケトン食については全く知らなかったので、「なるほどこういう食事療法もあるのだな」というのが第一印象でした。萩原先生も本の中で書かれていますけれど、ケトン食についてはすでにいろいろと論文があったり、また古代ギリシアのヒポクラテス(医学の父)の時代から使われていた治療法であるとか、大変興味深く読ませていただきました。

――例えば、印象に残った箇所ですとか、読者にお勧めできるポイントなどはありますでしょうか。

吉永 この本は、糖質制限とケトン食の2部構成になっていると思うんですけど、先ほども言ったようにケトン食については、私はよく知らなかったので、大変勉強になったというのが正直な感想です。
糖質制限についてですが、私も今の人はやはり糖質過多の人が多いのかなと常々思っています。ご飯を食べて、パンを食べて、麺類を食べて、間食をして、果物も食べてと、糖質にちょっと偏りすぎなのではないかと。

 この本では、一般の人にもわかりやすく「こういう人は糖質制限をしなくていい」「逆にメタボの人とか、空腹時血糖値が高い人で、50歳以上は糖質制限した方がいい」と具体的に書いてあるので、糖質制限をした方がいい人、しなくていい人をはっきり分けて書いてあるのがわかりやすくていいなと思いました。それがわかるだけでも読む価値はあると思います。

お米を食べないことで
筋肉量が低下する

――「人間の寿命を決めるのは筋力と筋肉量だった」という点は、どう思われましたか。

吉永 筋肉が大事というのは私も同感です。漢方の治療でも、最終的には薬に頼るのではなく、食養生とか運動などについても患者さんには、お勧めしています。

 じつはこの本を読む前のことなんですけど、私も朝のご飯を抜いて、目玉焼きとか味噌汁などを食べてプチ糖質制限をしていた時期がありました。そうしたらいくら筋トレをしても全然筋肉が増えなくなったのです。それで「これはおかしい。もう老化が始まっているのか」と思ったのですが、朝のご飯を食べて、スクワットとかをやりだしたら筋肉が増えはじめました。糖質制限をすると糖新生(とうしんせい)といって筋肉が分解されてしまってエネルギーに変わるということですが、この本を読んで「自分は誤ったことをしてたんだなあ」と思いましたね。

――糖質(お米)の摂取の多寡が筋肉の形成と関係しているという話ですね。

吉永 その自分自身の経験やよく入院患者さんでも、体重は減ったけど筋肉も落ちてしまう人がいて、私もその点は問題意識を持っていましたので、本の前半の糖質制限に関する箇所は非常に共感できました。

 また「果物は土用の丑(どようのうし)の日に食べるぐらいでいい」とか「みんなで分けて食べるもの」とかですね。漢方でも果物は体を冷やすから冷え性の人には、あまり食べないように指導しています。冷えは万病のもととして、生野菜とか果物全般は体を冷やしてしまいます。

――本の中では「がんの患者さんの食生活を聞いてみると、ほとんどの人が毎朝パン食」だったということが書いてあるのですが、その点については吉永先生はどう思われますか。

吉永 その点は、これまで意識していなかったです。ただ漢方の患者さんでも機能性胃腸症とか、過敏性腸症候群といった検査では異常がなくてお腹の症状がある方が多いのですけれど、その方々に「パンをやめてみてご飯中心にしてみたら」などのアドバイスをすると、だいぶ良くなる方が意外に多いのかなというのは私も実感しています。

――漢方では食事については、どういう捉え方をしているのでしょうか。

吉永 漢方では「医食同源」という言葉があります。私の勤務する飯塚病院の漢方の師匠筋にあたる小倉重成先生という方が「和漢食」というものを提唱されています。これは体の炎症を抑えるために肉、油、砂糖、生ものなどを食べない、玄米菜食で小食というのが和漢食の概念です。

 飯塚病院でも和漢食というのを入院患者さんに適宜、提供しています。がんの患者さんにはあまり提供してませんが、元々は膠原病(こうげんびょう)の方とか、体の炎症のある方などに対する食事療法として開発されたものです。