私たちは、ヒトがこの地球上で一番進化している生物だと考えがちではないだろうか。しかし、ヒトよりトカゲが優れていると知ったら? 実は進化は進歩ではないと知ったら? ユーモアたっぷりに教えてくれるのは、ロングセラーとなっている『若い読者に贈る美しい生物学講義』。分子古生物学者である著者が、身近な話題も盛り込んだ講義スタイルで、生物学の最新の知見を語っている。
養老孟司氏「面白くてためになる。生物学に興味がある人はまず本書を読んだほうがいいと思います。」、竹内薫氏「めっちゃ面白い! こんな本を高校生の頃に読みたかった!!」、山口周氏「変化の時代、“生き残りの秘訣”は生物から学びましょう。」、佐藤優氏「人間について深く知るための必読書。」と各氏からも絶賛の声。本稿では本書より一部を抜粋・編集して「進化と進歩」について紹介する。(構成:小川晶子)
ヒトの祖先は海の生き物
地球上のあらゆる生物の祖先は、もとをたどれば海の中で生まれた。
それが長い時間をかけて陸に上がり、カエルなどの両生類やトカゲなどの爬虫類、そして鳥類や哺乳類が現れて多様になった。
私たちの祖先も魚だ。魚の一部が陸に上がって、そのほかさまざまな部分を変えながらヒトになった。
筆者の小学生の息子は、古代の地球や生物が好きなようでしょっちゅうそういった図鑑を眺めている。ものすごい進化を繰り返して、ヒトになったのだなぁと驚嘆している。
トカゲのほうがヒトよりも優れている?
ただ、この地球上で最も進化した生物がヒトだというわけではない。
実は「ヒトよりトカゲが優れている」と聞いたら、あなたはどう思うだろうか。
本書では、生物の進化の道筋を示した系統樹とともに、具体的にどうやって陸上への適応をしてきたかを教えてくれている。簡単にまとめて紹介したい。
陸上生活に適応できるよう、次のような進化的変化が起きた。
脊椎動物の体はたくさんのタンパク質でできており、古くなったタンパク質は分解して捨てる必要がある。タンパク質を分解するときに出るアンモニアは有害なので、早く捨てたいが、周りに水がないと捨てられない(アンモニアは水溶性)。だから、アンモニアを毒性の低い尿酸に変えるよう進化した。
2. 卵が乾燥しないよう、羊膜卵にする(爬虫類、鳥類、哺乳類)
羊膜卵とは、羊膜で作った袋の中に水を入れ、その中に胚を入れた卵。さらに外側に殻を作って乾燥しにくくした。
3. 尿素を尿酸に作り変える(爬虫類、鳥類)
尿素は体にある程度溜めておけるが、捨てる際にはやはり水が必要(おしっことして溜めておき、捨てる)。尿酸は水に溶けにくいので、捨てるときにほとんど水を使わなくていい。
確かに、フンはよく落ちてくるが鳥がおしっこするのは見たことがない(厳密には少しは尿を出すらしい)。尿酸を捨てるためにあまり水を必要としないからだったのか。
このように見ると、陸上生活に適応しているという点でトカゲやニワトリのほうがヒトより優れていることになる。
そして、魚もカエルもトカゲもニワトリも、今生きている種はすべて「進化の最後に現れた種」と言える。ヒトも同じだ。
これを踏まえて、著者の更科功氏はこう教えてくれている。
(P.227)
なんとなく、勇気の出る言葉だ。
進化は進歩ではない
人類は、さまざまな進化を繰り返して現在のような人類になった。それは間違いない。
しかし、それは「進歩」ではない。
(p.229)
私たちは、生物の中でヒトが最も進化の先を行っているような感覚を持っていないだろうか。
よく見かける進化の図では、両生類はここまで、爬虫類はここまで、という感じで線が引かれていて、先頭にヒトがいる。一番進歩しているかのように見える。
それは、進化が直線的に起こるものだという錯覚である。
本当はもっと網目のようにあちこちに広がって進化している。だからこれほど多様な生物が存在しているのだ。
なお、「進化が進歩ではない」ことを最初に示したのは『進化論』で有名なダーウィンだという。
生物が進化すると考えていた人たちは他にもいたが、みんな「進化は進歩だ」と思っていた。生物の中でヒトが最上位だという考えがあったのだ。
ダーウィンは、生物の進化に目的地があるわけではなく、目の前の環境に適応するように進化していることに気づいた。
これが画期的だったのだ。あらためてダーウィンすごい。
『種の起源』から150年以上経つが、つい「人類が最上位」的な思考をしている人々をダーウィンが見たら「やはり進歩していないな」と思うだろうか。