「私はなぜこんなに生きづらいんだろう」「なぜあの人はあんなことを言うのだろう」。自分と他人の心について知りたいと思うことはないだろうか。そんな人におすすめなのが、『こころの葛藤はすべて私の味方だ。だ。著者の精神科医のチョン・ドオン氏は精神科、神経科、睡眠医学の専門医として各種メディアで韓国の名医に選ばれている。本書は「心の勉強をしたい人が最初に読むべき本」「カウンセリングや癒しの効果がある」「ネガティブな自分まで受け入れられるようになる」などの感想が多数寄せられている。精神科医で禅僧の川野泰周氏も「著者のチョン・ドオンさんのような分析家の先生だったら、誰でも話を聞いてほしいだろうなと思います」と語る。読者に寄り添い、あたかも実際に精神分析を受けているかのように、自分の本心を探り、心の傷を癒すヒントをくれる1冊。今回は川野氏に「自分を追いつめすぎてしまうときの対処法」について聞いた。(初出:2023年3月11日)

【精神科医が教える】「もう何も考えたくない…」。自分を追いつめすぎてしまう人が、一気にラクになる考え方とは?【書籍オンライン編集部セレクション】Photo: Adobe Stock

「減点法」ではなく「加点法」で考える

――真面目な人ほど「もう何もやりたくない」と、突然無気力な状態になることもあります。極度の疲労感を感じたら、どのように過ごすのがいいでしょうか。

川野泰周(以下、川野):マルチタスクの現代社会では、「脳疲労」「燃え尽き症候群(バーンアウト)」「うつ」といった言葉が誰にとっても無縁ではありません。

仕事だけではなく、パートナーや家族、友人関係、地域での付き合い、さらにはSNSなど、どこにでもストレス源は潜んでいる可能性があります。

自分を追いつめすぎてしまう人に私がおすすめしている考え方は、「何もないところからスタートしてみる」ということ。ゼロポイントを基点として考えてみるということです。

――何もないところからスタートですか。

川野:はい。「いろいろなモノや能力、ステータスを持っているのが当たり前」「ちゃんとできて当たり前」ということを前提にして自分を見てしまうと、それが十分に発揮できなかったり、失われたりすることに焦りや喪失感を感じやすくなり、自己嫌悪になりがちです。

私が勤務している都内の精神科クリニックでは、院長先生がよく患者さんに対して、「加点法で考えましょう」とおっしゃっていたのが印象的でした。

私自身も時々そうなっている自覚がありますが、私の患者さんたちにうかがっても、「減点法で考えるクセ」があったことに気づいていただけることが少なくありません。

――たしかに「できていること」よりも「できていないこと」のほうに目が向きやすいですね……。

川野:たとえば、「今まで3~4時間睡眠で働けていたのに、最近は5~6時間寝ないと仕事にならない」とがっかりされている方もいます。

でも睡眠医学的に観れば、5時間か6時間睡眠でも不足しているという人はいくらでもいらっしゃいます。

3~4時間睡眠で充足する人はたしかに稀にはいるのですが、ほとんどの人はそれで何とかなっていたのではなく、「ものすごく無理をしていた」と考える必要があります。

むしろ「自分の心や体にとって本当に必要なものを、必要だと認識できるようになった」と考えていただくことが大切です。

――「無理していた」ということに、気づけたということですね。

川野:はい。

日頃から、減点法ではなく加点法、つまり「できていないこと、できなかったこと」ではなく、「できていること、できたこと」に目を向ける。

そうすると、自分自身の存在を受容できるようになり、心理的なストレスをより上手に受け流すことができるようになると思います。

仏教では「知足」という言葉が重んじられています。

ブッダも厳しい修行の果てに、「自分がすでに持っているもの」の尊さに気づき、生老病死の苦しみを手放すことができたと考えられます。

今の言葉に言い換えれば、加点法で考えることが、自己の人生そのものをあるがままに肯定することにつながる、と言えるのではないでしょうか。

チョン・ドオン先生の『こころの葛藤はすべて私の味方だ。』にも肯定的に自己認識を深める方法が多数書いてあります。

ぜひ<この本などを参考にしながら、ご自身が減点法で考えていないかチェックしてみていただきたいと思います。

川野泰周(かわの・たいしゅう)
精神科・心療内科医/臨済宗建長寺派林香寺住職
精神保健指定医・日本精神神経学会認定精神科専門医・医師会認定産業医
1980年横浜市生まれ。2005年慶應義塾大学医学部医学科卒業。臨床研修修了後、慶應義塾大学病院精神神経科、国立病院機構久里浜医療センターなどで精神科医として診療に従事。2011年より建長寺専門道場にて3年半にわたる禅修行。2014年末より横浜にある臨済宗建長寺派林香寺住職となる。現在寺務の傍ら都内及び横浜市内のクリニック等で精神科診療にあたっている。
主な著書に『会社では教えてもらえない 集中力がある人のストレス管理のキホン』(すばる舎)、『半分、減らす。「1/2の心がけ」で、人生はもっと良くなる』(三笠書房)、『精神科医がすすめる 疲れにくい生き方』(クロスメディア・パブリッシング)、『「精神科医の禅僧」が教える 心と身体の正しい休め方』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)などがある。