「私はなぜこんなに生きづらいんだろう」「なぜあの人はあんなことを言うのだろう」。自分と他人の心について知りたいと思うことはないだろうか。そんな人におすすめなのが、『こころの葛藤はすべて私の味方だ。』だ。著者の精神科医のチョン・ドオン氏は精神科、神経科、睡眠医学の専門医として各種メディアで韓国の名医に選ばれている。本書は「心の勉強をしたい人が最初に読むべき本」「カウンセリングや癒しの効果がある」「ネガティブな自分まで受け入れられるようになる」などの感想が多数寄せられている。精神科医で禅僧の川野泰周氏も「著者のチョン・ドオンさんのような分析家の先生だったら、誰でも話を聞いてほしいだろうなと思います」と語る。読者に寄り添い、あたかも実際に精神分析を受けているかのように、自分の本心を探り、心の傷を癒すヒントをくれる1冊。今回は川野氏に本書のおすすめポイントを聞いた。
「自分の感情」を否定してはいけない
──『こころの葛藤はすべて私の味方だ。』では、「絶望」をテーマに取り上げています。生きていると、「もうどうにも前に進めない」という絶望的な心境に陥ることがあります。そんなときはどうすればいいでしょうか?
川野泰周(以下、川野):そうですね。仏教では「一切皆苦(いっさいかいく)」という言葉ありますが、私たち人間にとって、人生とは困難の連続と言っても過言ではありません。
「現実に希望を見出すことができない」と考えてしまうこともあると思います。
そんなときに大切なのが、「こんなふうに思ってはいけない」と、自分の抱いている感情を否定しないことです。
──感情を否定しない、ですか。
川野:はい。たとえば、私たちが経験するもっとも悲しい出来事の一つに、大切な人を亡くす「喪失体験」があります。
アメリカの心理学者、ロバート・ニーメヤー博士は、「喪失にともなう心の変化」を3段階で説いています。
第一段階は「そんなことが起こるはずはない」と否定したり、他者に怒りをぶつけたりする「回避」。
第二段階は起きた出来事を現実として認識できるようになり、悲しみが込み上げる「直面」。
第三段階は現実と向き合って新たな一歩を踏み出そうとする「適応」。
この3つのフェーズです。
こうした変化は必ずしも順当に進むとはかぎらず、行きつ戻りつしながら紆余曲折を経て適応に至ることも少なくありません。
そして、私はこの3段階のうち、とくに2段階目の「直面」のフェーズが重要だと考えています。
──「直面」ですか。
川野:はい。この段階でしっかりと自らの悲しみ、苦しみを観察してあげることがとても大切です。
自分の感情にフタをして、その悲しみを「なかったこと」にしてしまうと、現実に向き合って新たに一歩を踏み出すのが難しくなる。
精神科医としての経験からそのように感じるようになりました。