半導体への関心が高まるなか、開発・製造の第一人者である菊地正典氏が技術者ならではの視点でまとめた『半導体産業のすべて』が発売された。同書は、複雑な産業構造と関連企業を半導体の製造工程にそって網羅的に解説した決定版とも言えるものだ。今回は前回に続き、今後確実な成長が期待される分野で使われる半導体について解説する。

テクノロジーと成長Photo: Adobe Stock

データセンターでは?

 IT化の利用・活用は拡大・進化し、ニーズも多様化しています。また自然災害等に備えた事業継続計画(BCP)の一環としても、システムの安全な運用が求められます。データセンターは、サーバーやネットワーク機器などのIT機器を収納し運転させるための施設です。

 データセンターには、インテルのXeonやAMDのEPYCなど、高性能のサーバー(MPU)エヌビディアやAMDなどのGPUアプリケーションプロセッサ、FPGA、DRAMとフラッシュメモリ、通信用ICなどが大量に使われています。

 大手IT企業などのハイパースケールと呼ばれる巨大データセンターでは、大量の電力と冷却用の水を必要とするため、建設地域から問題視されるケースも散見されます。

AI・ディープラーニングでは?

 AI(人工知能)とは、元々の定義によれば、「知的な機械、特に知的なコンピュータプログラムを作る科学と技術」と定義されます。いっぽう、ディープラーニング(深層学習)とは、人間が自然に行なう仕事や作業をコンピュータに学習させる機械学習の一つの手法で、人間が学習によりニューラルネットワークを次第に複雑にしていく過程に似通った原理を用いていて、今日のAI技術のコアになっています。

 機械学習やディープラーニングの仕組みを持ったAIチップ(アクセラレータ)としては、グーグルTPU(Tensor Processing Unit)、アップルAxxバイオニック、インテルXPU、IBM Telumプロセッサなどがあります。

人工知能(AI)に使われるIC人工知能(AI)に使われるIC

IoT、DXでは?

 IoTとは、さまざまなモノがインターネットに接続され、相互に情報を交換し合うことによってデジタル社会を実現する方法のことです。いっぽう、DX(デジタルトランスフォーメーション)とは、進化したデジタル技術を社会のあらゆる局面に浸透させることでより豊かでより良い生活を実現しようとするものです。

 IoTやDXなどのシステムでも、さまざまなICが数多く使われています。さまざまなアナログデータを検知・収集するMEMS(微小電子機械システム)を用いた温度センサー、圧力センサー、加速度センサー、ジャイロセンサー(回転)、あるいはCMOSを用いたイメージセンサーなどのセンサー類があります。また、得られた微弱なアナログ信号を増幅するアナログIC、アナログ信号をデジタル信号に変換するADC(アナデジコンバータ)、デジタル信号を処理するMCU(マイコン)、処理した情報をアナログ信号に変換するDAC(デジアナコンバータ)なども使われています。

 他にも、処理済み情報をインターネットに上げるための通信用IC、全体を動かすためのPMIC(電力管理用IC)などが不可欠です。またIoT端末が多い場合など、インターネットに上げる前にエッジ側(端末の置かれている側)で、ある程度のデータ解析や処理を行なうため、ゲートウェイのなかにSOCやCPUを搭載するケースもあります。

ドローンでは?

 最近では、建設現場などの周辺状況を把握するためにドローンが使われることが増えています。たとえば、ドローンに搭載された各種のセンサーによって、画像、音声、力、加速度、温度などのデータを取り込みます。また、機械の動作状態を知るため、知覚・識別・認識をするためのイメージセンサーやMEMSセンサーなども搭載されています。そして、ロボットやドローン自身の制御などを行なうため、MCU(マイコン)やDSP、ネットワークやインターネットに接続するための通信プロトコル処理用IC、動力やコントローラ制御のためのパワー半導体などが搭載されています。

 以上見てきたように、半導体が利・活用される分野と機器は多岐にわたります。いずれも人々の生活の利便性、快適性、安全性の向上、地球環境への負荷低減、カーボンニュートラル化などのためのシステムの高機能化、高性能化、高効率化、機器や装置の小型・軽量化・高信頼性化・低コスト化が半導体を用いる目的ですが、それが回りまわって半導体自身さらには半導体製造装置にも及んでいます。

ドローンに使われるICドローンに使われるIC

(本記事は、『半導体産業のすべて』から一部を転載しています)