半導体への関心が高まるなか、開発・製造の第一人者である菊地正典氏が技術者ならではの視点でまとめた『半導体産業のすべて』が発売された。同書は、複雑な産業構造と関連企業を半導体の製造工程にそって網羅的に解説した決定版とも言えるものだ。今回は「半導体産業の全体像」のうち、前回のIDMに続き、ファブレス、ファウンドリー、OSATについて解説する。

3分でわかる半導体産業の全体像【ファブレス、ファウンドリー、OSAT編】Photo: Adobe Stock

ファブレス

 IDMに対し、「ファブレス」(Fables)と呼ばれる企業があります。ファブレスとは、文字通り「ファブ(工場)+レス(もたない)」ということです。

 ファブレス企業は自社で製造をせず、もっぱら半導体の開発・設計に特化しています。ファブレス企業を半導体産業の中心に置いて見ると、その周りにはEDAベンダーとIPベンダーの他にファウンドリー(Foundry)OSAT(オーサット)と呼ばれる業界があります。

 ファウンドリーとは、半導体製造の「前工程」と呼ばれる前半の工程の作業を請け負い、顧客の設計データに基づいた受託生産をする会社の業界です。この業界の世界トップは有名な台湾のTSMCです。ファウンドリーには、前工程を行なう装置メーカーと材料メーカーが関係しています。

 ファウンドリー企業に対し、OSAT企業(オーサット:Outsourced Semiconductor Assembly and Test)とは、「後工程」と呼ばれる半導体製造の後半の工程作業・テストを請け負う会社からなる業界です。OSATには、後工程を行なうための装置メーカーと材料メーカーが関係しています。

ファブレス企業を中心にした半導体産業ファブレス企業を中心にした半導体産業

ファウンドリー

 さらに、ファウンドリーを半導体産業の中心に置いて見ると、ファウンドリーは半導体メーカー(IDMやファブレス企業)から半導体製造の前工程を受託し、前工程用の装置と材料を使用して製造を行なうということになります。

 ここで、ファウンドリーに対して製造委託する会社のひとつにIDMを含めたのは、一見奇妙に思えるかもしれません。というのは、IDMは自らが半導体を生産する会社だからです。

 しかし、IDMといっても、自社で開発・製品化する半導体の一部は自社で設計のみを行ない、前工程の製造をファウンドリーに委託するケースがしばしば見られるためです。

 IDMは自社の製造ラインを持っているにもかかわらず、ファウンドリーに前工程を委託するのには、主に三つの理由があります。

 一つ目の理由は、自社のラインで製造できる半導体でも、製造キャパシティが不足している、あるいは製造リードタイムを短縮したい場合です。二つ目の理由は、半導体製品の需給バランスの変動に対する「バッファ」(緩衝)として、ファウンドリーを利用したい場合です。三つめの理由は、自社で保有しているラインでは製造できないような先端技術製品を開発・製品化したい場合です。

 この三つ目のケースでは、先端技術ラインを保有しているファウンドリーに製造委託する他ありません。

ファウンドリー企業を中心にした半導体産業ファウンドリー企業を中心にした半導体産業

 

OSAT(オーサット)

 ファウンドリーと同様に、OSATを半導体産業の中心に置いて見ると、OSATは半導体メーカー(IDMやファブレス)から半導体製造の後工程を受託し、後工程用の装置と材料を使用して製造を行なう位置にあることがわかります。

 ここで、OSATに製造委託する会社としてIDMを含めたのは、IDMが開発・製品化する半導体の中で、自社が保有する後工程の組立や検査のキャパシティが足りない、あるいは後工程のリードタイムを短縮したい場合、さらには自社の保有する後工程ラインではできない組立や検査が必要な場合があるためです。

OSAT企業を中心にした半導体産業OSAT企業を中心にした半導体産業

デザインハウス、ファブライト企業とはどのような業界か?

 これまで述べてきた分類に加え、ファブレスをさらにファブレスと「デザインハウス」に分類している記述を見掛けることもあります。この場合、デザインハウスは設計作業のみを請け負い、自社で製品化をしない企業を意味します。

 ただ、『半導体産業のすべて』ではファブレスとデザインハウスを特に区別していません。なぜなら、デザインハウスは、ファウンドリー企業の一部門として、あるいは子会社として存在していることも多く、また多数の小規模企業としても存在しているためです。

 また、半導体産業の業態の一つとして「ファブライト」と呼ばれる企業を区別するケースもあります。ファブライトとは、いわばIDMとファブレスの中間的存在で、自社で小規模な生産ラインを持っているものの、生産の大部分はファウンドリーに委託する企業のことです。

 しかしながら近年、半導体産業における業種構造や役割の変化に伴い、明確に「ファブライト」と呼べる企業は少なくなって来ていて、IDMやファウンドリーと並列に見ることには違和感があります。極端に言えば、ファブライトという言葉自体、ある意味で死語化していると思われます。

(本記事は、『半導体産業のすべて』から一部を転載しています)