昨今の飲食業界では、「カルーアミルク専門店」「梅酒カクテル専門店」など、ラインアップを特定の商品に絞ったニッチな店が台頭しています。中でも、動物由来の原料を使わない「ヴィーガン専門店」が人気を集めており、今年1月にも都内に新店舗がオープンしました。ですが実は、ヴィーガン食品を好む日本の若者の中には、牛肉を使った焼肉も「大好き」という人が多いのです。一見すると矛盾した消費行動の裏に、どんな考え方があるのでしょうか。(芝浦工業大学教授 原田曜平)
植物由来のドーナツにハンバーグ…
ヴィーガンフードの専門店が台頭
Z世代の研究を行っている、芝浦工業大学教授の原田曜平です。最近は飲食業界で、若者をターゲットに据えた「専門店」が相次いで開業しているのをご存じでしょうか。
専門店といっても、すでに人気を確立しつつある唐揚げや高級食パンの専門店ではありません。
「カルーアミルク専門店」「梅酒カクテル専門店」「生クリーム専門店」など、ラインアップを特定の商品に絞った“超ニッチ”なお店が、ここ数年でやたらと増えているのです。
その中でも、若者たちから特に名前を聞くようになったのが「ヴィーガン専門店」です。
言わずもがなですが、ヴィーガンとは「完全菜食主義者」を意味します。動物愛護などの観点から欧米諸国で広がっており、この信条を持つ人は動物由来の食品を一切口にしません。
日本のヴィーガン専門店でも、豆乳や植物性油脂で作られたドーナツ、大豆で作られたハンバーグなど、動物由来の原料を全く使わないメニューが提供されています。代替肉などを取りそろえた「ヴィーガンコンビニ」が東京都内に誕生し、話題になったこともありました。
2023年に入ってからも、このトレンドは続いています。1月中旬には「ヴィーガンジェラート専門店」の「TUTTO(トゥット)」が東京・清澄白河にオープンしました。牛乳・卵・白砂糖を使わず、アーモンドミルクなどで味付けしたジェラートだけを売っているお店です。
私がZ世代のトレンドを調査する中で、「TUTTOが気になっている」と名指しで挙げてくれた若者もいました。
このお店の内装を見てみると、白を基調とした“韓国風インテリア”に近い印象を受けます。ですが、韓国でヴィーガンが大流行しているわけではないので、この組み合わせは少し不思議です。
「韓国風」「ヴィーガン」という若者のトレンドを掛け算することで付加価値を高め、同業他社と差別化を図ろうとしているのかもしれません。
また、そうした工夫をしなければ生き残れないほど、ヴィーガン専門店同士の競争が激しくなっているという見方もできます。
そんなヴィーガン専門店に若者がハマる理由を探っていくと、もっと不思議な実態が見えてきました。
彼・彼女らの多くはヴィーガンフードを好む一方で、牛肉を使った一般的な焼肉も「大好き」だというのです。欧米ではあり得ない現象ですが、こうした矛盾はなぜ起きているのでしょうか。