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商社勤務を経て日本人ビジネスパーソン向け英語教材を開発する筆者が、台頭するインド英語の「驚きの実態」を紹介します。バラエティーに富むインド人の英語から、日本人が学べることは何でしょうか?(パタプライングリッシュ教材開発者 松尾光治)

「英米ネイティブ志向」は、インドには当てはまらない

「ネイティブは、そう言いません」
「その英語、ネイティブには少し変に聞こえます」

 こうしたタイトルが付いた英会話に関する記事やYouTube動画をよく見かける。見る人の関心を引きたいのだろう。肝心の内容は、いいものも首をかしげざるを得ないものもある。かくいう筆者も、そうしたタイトルを付けることがある。

 英語ネイティブから「あなたの英語はおかしい」と言われれば、大半の日本人は素直に「まあ、そうなんだろうな」「自分の英語力は未熟なんだな」と思うだろう。

 それは、「Nice people」として世界中で好かれる日本人の謙虚さ(謙虚さが美徳とされない文化もあるが…)の表れともいえるし、一方で、減点主義の世界で育ったがゆえ「悪いのは自分」と思ってしまう“残念な国民性”ともいえる。

 他方、「ネイティブは、そう言いません」というタイトルがあまり効かない人たちもいる。英語を話すインド人だ。

「どのような英語を模範にしたいか?」という調査を、ある社会言語学者がインド人の学生に対して行った。回答結果は次の通り。

◆教育を受けたインド人の英語 60%以上
◆イギリス英語 33.5%
◆アメリカ英語 4.0%

 この結果を見ると、日本で圧倒的な「英米ネイティブ志向」は、インドには当てはまらないようだ。

 インドは、ほぼ州単位に分かれた22もの主要母語を持つ国だ。それは、ヨーロッパ各国が異なる言語と文化を持つのと似ている。国家としての公用語は、旧主国のイギリスの言語である英語を、“仕方なく”採択した歴史的経緯がある。

 だから、英語はインド人にとって外国語ではないものの、生まれて最初に覚える母語でもない(ごく少数の例外を除く)。そのため、さまざまな母語の文法や表現、訛(なま)りに影響を受けた英語が存在する。

 インドの中流階級以上の親は、教育費を捻出して、英語環境の私立幼稚園・私立小学校に子どもを入れることも多い。公立学校だと、自分たちの母語や、北部においてはヒンディー語で授業が行われるのでそれを避けるためだ。英語を話すことはステータスでもあり、過酷な競争社会を生き抜くために必須の手段でもある。生活と教育水準の格差が大きく、かつての階級制度(カースト)において底辺寄りにいた人たちは、英語を全く話せないこともしばしばだ。

 そうした英語学習環境のため、訛りが極端に強い学校の先生からそのまま発音を引き継ぐ子どももいれば、「格調が高い」としか形容しようがない英語を書いたり話したりするインド人もいる。ちなみに、インド英語で書かれた文学は、今では一つのジャンルとして世界的ベストセラーを多数生み出してもいる。

 そんなバラエティーに富むインド人の英語から、日本人が学べることがたくさんある。今回は三つの点を考えてみたい。