専門家によれば、裁判の審理が始まってからは陪審員をホテルなどに隔離して、外部からの影響や情報の露出を制限することも考えられるという。
それから裁判ではトランプ氏側が大統領在任中の免責特権などの法的申し立てを行ったりして、審理にかなり時間がかかることが予想される。
そしてこの裁判は当然、2024年1月から始まる大統領選の共和党予備選と、11月の本選の結果にも大きな影響を与えることになろう。
テスラCEOのイーロン・マスク氏はトランプ氏起訴の可能性が報じられた直後、「もしそんなことになれば、トランプ氏は地滑り的勝利で再選されるだろう」とツイートした。
それはあり得ない話ではない。トランプ氏は自分にとっての不利な状況を有利に変えることに非常にたけているからだ。
今回も検察に起訴されたことを逆手に取り、「自分は無実だ。不正義な司法制度の被害者なのだ」と主張し、人々の同情や注目を集め、支持を増やして予備選に勝利するかもしれない。しかし、本選では、民主党支持者の大多数と無党派層の半数ぐらいは「トランプ氏は罪を犯した」と考えているとみられるため、この戦術が通用するかどうかはわからない。
いずれにしてもトランプ氏の起訴は米国社会の分断をさらに深めるものになりそうだ。とはいえ、米国の民主主義と法の支配を守るためにこの起訴を行う価値はある、と考える政治や法律の専門家は少なくない。
トランプ前大統領の1回目の弾劾裁判の時、下院司法委員会の特別顧問を務めたノーマン・アイゼン弁護士は他の法律専門家らと共にニューヨーク・タイムズ紙に寄稿したオピニオン記事、「トランプ起訴の可能性に備える時が来た」(2023年2月17日)の中でこう述べている。
「米国の基本的な考え方は、誰も法を超越する存在ではないということ。犯罪の重大な証拠がある場合、大統領経験者でも他の人と同じように責任を取る必要がある。そうしなければ、事件は再発するだろう。それは長く険しい道のりであることは間違いないが、米国の民主主義にとって必要なものである」と。
最後に、仮に起訴されて有罪判決を受けたトランプ氏が大統領に返り咲いた場合、そのまま大統領の職務を遂行できるのかという疑問が出てくる。合衆国憲法にはそれを禁止する条項はないが、現実的にそれはどうなのか。改めて国民的な議論を尽くす必要があるだろう。