量子コンピューターの「国産初号機」がついにデビューした。理化学研究所などが開発したマシンは、どこまで国産なのか。国産初号機の部品の詳細が、関係者への取材で判明した。(ダイヤモンド編集部 大矢博之)
量子コンピューター
「国産初号機」が本格稼働開始
日本の量子コンピューター産業の歴史に残る一日が訪れた。
埼玉県和光市の理化学研究所で3月27日、量子コンピューターの「国産初号機」が本格稼働を始めた。開発したのは理研や富士通、日本電信電話(NTT)などの研究グループで、同日からクラウド上で公開し、理研と契約を結んだ研究者による外部利用を開始した。
量子コンピューターが“夢の計算機”と期待を集めるのは、爆発的な潜在力を秘めているからだ。
既存のコンピューターは0と1の組み合わせ(ビット)で情報を扱う。一方、量子コンピューターの情報単位となる「量子ビット」では、重ね合わせという量子力学の不思議な性質を使うことで、0と1の両方の状態を同時に表すことができる。例えば2量子ビットならば00、01、10、11の4パターンを一度に扱うことが可能だ。
量子コンピューターの1回当たりの計算はそれほど速くないものの、量子ビット数の増加に伴い、性能は指数関数的に向上していく。64量子ビットならば、2の64乗、約1845京種類の情報を同時に計算できるのだ。
このため、金融商品のリスク計算や薬、化学品の新規素材の開発など、従来のコンピューターでは解くことが困難な問題を高速で計算できると期待されている。
今回、理研などが開発したのは超伝導方式の64量子ビットの量子コンピューターだ。しかし、量子ビットのチップの一部に不具合があり、実際に動作するのは53量子ビットだという。
この日のお披露目会では、星野剛士内閣府副大臣と井出庸生文部科学副大臣がノートパソコンから国産初号機を操作し、2量子ビットを制御するデモが実施された。
「富士山ならば(河口湖から5合目まで続く、富士)スバルラインに乗ったくらい。大規模量子コンピューターの実現は非常にチャレンジングで、世界的に見てもまだまだ気の長い技術だ。われわれが貢献する余地は十分にある」
研究グループを率いる理研の中村泰信・量子コンピュータ研究センター長は会見でこう強調したものの、米グーグルやIBMなど海外勢が開発競争では先行する。
そもそも、政府が国産初号機と位置付ける今回の量子コンピューターはどこまで国産なのか。次ページでは、関係者への取材で判明した、実際に使われた部品や技術の詳細に迫る。