量子コンピューターをクラウド経由で利用できるサービスを、海外のIT大手が強化している。狙うのは自陣営への人材の囲い込み。さながらパソコン黎明期のウィンドウズとマッキントッシュの覇権争いのような状況で、海外勢が利活用の主導権を握り始めた。特集『最強の理系人材 量子エリート争奪戦』(全6回)の#3では、量子コンピューターサービスの勢力図を追った。(ダイヤモンド編集部副編集長 大矢博之)
量子コンピューターがついに日本上陸
IBMの虎の子の試験設備が東大に
いよいよ量子コンピューターが日本に上陸する。
6月7日、東京大学浅野キャンパスに、米IBMの量子コンピューターの試験設備が設置された。現在はまだ量子コンピューターの心臓部となる超伝導量子ビットのチップはないものの、それ以外の設備はIBMの“虎の子マシン”とほぼ同じ。今後5量子ビットのチップが搭載予定で、名称は「TSURU」になる見通しだ。
IBMが“門外不出”だった量子コンピューターの試験設備を、米国外に初めて設置した理由は、日本企業の技術力を取り込むためだ。商用量子コンピューター「IBM Q System One」は米国外ではドイツに4月に設置されたが、マシン本体を“いじれる”環境は海外では日本のこの施設だけだ。
量子コンピューターの心臓部は、マイナス273度に近い超低温になる。そこにケーブルをつなげて量子ビットを制御し、信号を読み取る。量子コンピューターの性能向上のため、信号の伝送や冷却設備なども含めて、さまざまな部品や材料を試験することがこの設備の目的だ。最初は東大の研究者が利用するが、今後利用を希望する企業の開拓を進めていく。設備が国内にあれば、日本企業は検証しやすい。
将来の野望は、量子コンピューターの心臓部の“改良”である。東大の仙場浩一特任教授によれば、現在の超電導量子ビットはアルミニウムでできている。「今後もアルミニウムのままでいいかは分からない。量子ビットにもっと適した超伝導物質があるはずで、それを探すレースが世界中で始まっている」(仙場教授)。
米国の発明王、トーマス・エジソンが開発した電球には、京都の竹が使われた。また、米アップルのiPhoneを分解すれば、日本企業の部品が多数使われている。「ゆくゆくは世界展開される量子コンピューターの心臓部に、この試験設備で開発した日本の技術が使われるようにしたい」と仙場教授は意気込む。