小さなごまかしだから問題ない――会社員なら、そう自分に言い聞かせた経験のある人もいるかもしれない。だが、その“ほんの少しの後ろめたさ”が、思わぬ場面で自分を試すことになる。『人生は「気分」が10割』の著者、キム・ダスル氏の新刊『人生は期待ゼロがうまくいく』の発売を記念した本稿では、ライターの柴田賢三氏になぜか信頼される人についてのエッセイをご寄稿いただいた。(企画:ダイヤモンド社書籍編集局)

「仕事はできても信頼されない人」が平然とやっていること・ワースト1Photo: Adobe Stock

ひと昔前は当たり前?
「グレーな領収書」

 固定給で働くビジネスパーソンなら、一度や二度は「グレーな領収書」を会社に出したことがあるのではないだろうか。

 会社の同僚と愚痴を肴に飲んだ店の領収書を「取引先との打ち合わせ」と称して提出してみたり、読みたかった小説を買った書店の領収書を「資料代」として経費処理したり、もしかしたら心当たりのある方もいるかもしれない。

 今でこそ、明細まで印字されてプリントされたものが多いから、こうした不正はやりにくくなっているが、ひと昔前までは手書きの領収書が当たり前で、バレにくいという社会的な背景もあった。

 しかし、私はあるときを境にグレーな経費処理を一切行わないようになった。

目の前に札束を積まれ……

 下請けのミスで、私が勤務していた会社にかなりの損害が出ることが確定的になった際、話し合いのために先方の会社に一人で出向いた。すると、ドラマのように札束を目の前に積まれ、「これでなんとか、なかったことに……」と隠蔽を持ちかけられたのだ。

 目の前に現金を積まれると、正直のどから手が出るほど欲しくなるものだ。これだけあれば、あれも買える、これも買える……。一瞬、札束に手をかけようとして思いとどまったが、帰り道でも何度か引き返してカネを受け取りたい衝動にかられた。

 次にこんなことがあったら、断れる自信がない……。

 しばらく悩んだ末に私が出した結論は、会社員を辞めるまでは「小さな不正も絶対に自分に許さない」ということだった。

 これを実践しはじめると、心が軽くなり、仕事も以前よりうまくいくようになった実感があった。

不正が癖になった人は
最終的に損をする

 “人生の指標”となる言葉の数々を収録している本、『人生は期待ゼロがうまくいく』の中にも「『後ろめたいこと』はしない」という項目があり、妙に納得したものだ。

 一ミリでも後ろめたさを感じるなら、どんな理由があろうと、やらないに限る。犯罪は言わずもがなだが、良心が痛むようなら、それは自分にとって「してはいけないこと」だ。それでも手を染めた場合、胸が痛み苦しむのは最初だけ。人間は、良心を無視するたびに少しずつ怪物になっていく。
――『人生は期待ゼロがうまくいく』(p.226~227)

 自分が中間管理職になったときには、部下が出してくる領収書が正しいかどうかを感覚でジャッジできるようになっていた。だからといって不正が疑われる経費をハネつけるようなことはせず、「ご苦労さま」と言ってハンコをついていた。

 ただ、平気な顔で疑わしい領収書を出してくる社員を重要な仕事からは遠ざけた。当然、その社員は社内評価が上がらず、損をすることになる。

 情けは人の為ならず。大切な人を大切にし、してはいけないことをしない。そして、感情に流されず、自分の人生の舵を握ること。これが、幸せに生きる、もっとも安全で堅実なアプローチだ。
――『人生は期待ゼロがうまくいく』(p.226~227)

 著者のキム・ダスル氏の言葉が、今になって身にしみる。

(本記事は『人生は期待ゼロがうまくいく』の発売を記念した書下ろしエッセイです)

柴田賢三(しばた・けんぞう)
大学卒業後、複数の出版社や不動産会社での社員を経てフリーライターとして独立。週刊誌、月刊誌、WEBメディアなどで記者、編集者を経験した。事件、芸能、スポーツ、サブカルチャーまで幅広く取材に携わり、のちに新聞やテレビでも大きな話題になったスクープをモノにしたこともある。