量子コンピューターの発展に伴い、一大産業に成長すると期待されているのが部品産業だ。米IBMは東京大学に試験設備を設置し、日本企業のものづくりの力を取り込もうとしているほか、大阪大学の試験設備では“ほぼ国産”マシンの開発が進む。量子コンピューターの部品産業で存在感を発揮できそうな日本企業はどこか。特集『号砲! 量子レース』(全8回)の#5では、量子コンピューターで注目の部品を手掛ける日本企業の実名と、量子コンピューターを製造するための費用の独自試算をお届けする。(ダイヤモンド編集部副編集長 大矢博之)
米IBMの量子部門トップが明かした
日本企業に期待する2つの役割
米IBMは日本に何を期待しているのか――。
IBMが2025年までに4000量子ビット以上の量子コンピューターを実現するという新たなロードマップを公開した今年5月。スイス・チューリヒで開催されたIBMのパートナー向けの会議に参加した東京大学の仙場浩一特任教授は、IBMの量子コンピューター部門のトップであるジェイ・ガンベッタ・バイスプレジデントにこう問い掛けた。
ガンベッタ氏はこう答えたという。
「会議で量子コンピューターのロードマップを発表したものの、4000量子ビットから先の10万~100万量子ビットを目指す場合、今のままの部品では連続的な性能向上につながらない。コストダウンとサイズダウンが必要だ。スマートフォンでこの二つをうまく達成しているのは日本製の部品ばかり。量子コンピューターでも同じことを期待している」
将来はあらゆる業界に影響を及ぼすとされる量子コンピューター。そのときに一大産業として育つ可能性を秘めているのは、量子コンピューターの部品ビジネスだ。米ボストン コンサルティング グループ(BCG)の予測によれば、30~39年の世界の量子コンピューターのハードウエア側の市場規模は年間2兆~4兆円に達するという。
IBMは21年6月、東大浅野キャンパスに量子コンピューターの試験設備を開設した。マシンのさらなる性能向上を目指し、日本の部品産業の力を取り込むためだ。ここでは“門外不出”であるIBMの量子コンピューターの部品を自社のものに置き換え、性能がどう変わるかを試験することができる。
仙場教授によれば、「日本の製造業数社がIBM・東大と契約を結び、今春から使い始めた」といい、利用を検討中の企業も複数あるという。
「日本企業の幹部と話すと、量子コンピューターは重要な産業になりそうだと感じているものの、ビジネスの確信を持っている企業はまだ少ない。自社の技術が使い物になるかどうか、測れるならぜひやってみたいという声が多い。浅野の試験設備から、日本製部品のサクセスストーリーを生み出したい」(仙場教授)
量子コンピューターの日本製部品の可能性を試しているのは、東大の試験設備だけではない。大阪大学にも量子コンピューターの試験設備があり、研究が進められている。試験設備の構築で中心的な役割を果たしている大阪大学量子情報・量子生命研究センターの根来誠准教授は、「“ほぼ国産”の部品で量子コンピューターは製造できる」と力説する。
量子コンピューターの部品産業で存在感を発揮できそうな日本企業はどこか。次ページでは、量子コンピューターで注目の部品を手掛ける日本企業8社の実名と、量子コンピューターの製造費用の独自試算をお届けする。