「事業の内容に関わりなく、前々年度の課税売上高(消費税の課税対象となる取引の売上高)が1000万円を超えておらず、前年度の上半期の課税売上高が1000万円を超えていない場合(給与等支払額に代えることも可能)は、免税事業者になることができます。逆に言えば、2年前の課税売上高が1000万円を超えていた場合、必ず課税事業者にならなければなりません」

 つまり、売り上げの少ないフリーランスや個人事業主、もしくは2年前には売り上げのない新たに独立した事業主などが、免税事業者になることができる。一方、「法人の場合は、売り上げが1000万円を超えることが多いので、課税事業者が多い」と齋藤氏は話す。

 今、免税事業者の立場であっても、自ら課税事業者選択届出書を提出すれば、課税事業者となることは可能だ。また、適格請求書発行事業者の登録申請を行えば、課税事業者となり、インボイスの発行が可能となる。

「前述のフローの例で言えば、仕入れ先Bが免税事業者のままでいると判断すると、消費税60円の納税義務は免除されます。しかし、インボイスを発行できないので事業者Aが別の仕入れ先にくら替えするリスクもはらみます。もしも、課税事業者になると、受け取った消費税60円は納税しなくてはならず、今後は事業者Aと納税額分を考慮した単価交渉を行う必要が出てくるでしょう」

 仕入れ先Bが課税事業者になると、これまでと売り上げが変わらなくても納税しなければならず、一方、免税事業者のままでは取引先を失うかもしれない。

 どちらを選んでも不利益を被る可能性が高い制度なのだ。

免税事業者のままでも
影響が少ない職種とは

 しかし、免税事業者のままでもほとんど影響を受けない人たちも存在する。

 まず、影響を受ける人は「課税事業者を取引相手とする免税事業者」だ。逆に言えば、取引相手が課税事業者でなければ影響を受けない可能性が高い。

「前述のフローは、事業者Aが課税事業者で、仕入れ先Bは免税事業者であると仮定した場合です。もしも、事業者Aが免税事業者で免税事業者同士が取引を行う場合は、お互いに消費税を納税する必要がないため、インボイスの問題は解消されます」

 他に、個人の消費者を相手にする事業者の場合も、免税事業者のままでほとんど問題ないのだという。

「個人を相手にしている商売であればインボイスを発行する必要がないので、無理に課税事業者になる必要はありません。代表的な例だと、学習塾や老人ホーム、パチンコ店。こうした商売は、法人への売り上げは考えづらいので、免税事業者のままでも問題はないでしょう」

 ただし注意が必要なのは、美容室など、個人を相手にしていても、特定の客から“領収書”を求められる可能性がある職種だ。

「美容室の利用客のほとんどは、散髪代を経費で落とすことはありません。ところが、舞台に出るためにヘアスタイルを整えたい俳優・女優などが利用した場合、所属事務所に経費として申告するために領収書が欲しいと言われる可能性があります。一部の客からは、インボイスが発行できる事業者かどうか選別される恐れはあるでしょう」

 なお、今年の改正により、導入当初6年は、一定規模以下の事業者については、1万円未満の経費等についてはインボイスの保存がなくても「仕入税額控除」ができるように手当てされた。