藤井聡太竜王が将棋界の戦法を変えた!最年少6冠は「小説より奇なり」の偉業写真はイメージです Photo:PIXTA

今年に入り、藤井聡太竜王が王将戦と棋王戦、さらに名人への挑戦権をかけたA級順位戦と、タイトルを懸けた熱戦を繰り広げて連日ニュースに登場している。王将戦で、“予言書”と話題になったのが『りゅうおうのおしごと!』。将棋ファン歴も長い作者の白鳥士郎氏に、藤井聡太竜王が与えた将棋界への影響について話を聞いた。(清談社 小森重秀)

フィクションを超える
藤井竜王の成長速度

 今年1月、将棋の王将戦第1局初日に繰り広げられた展開が、2017年発売のライトノベル『りゅうおうのおしごと!』に似ていると話題になった。

 作中では、タイトル戦の第1局初日に「一手損角換わり」という戦法を、羽生善治九段をモデルにした人物が採用している。また、史上最年少16歳で竜王となった主人公が対戦相手だが、こちらも今の藤井聡太竜王を想起させる人物……。

『りゅうおうのおしごと!』の1巻が発売となったのは、2015年。藤井竜王がデビューする1年近く前だ。「主人公とヒロインには、特定のモデルはいないんです」と、白鳥氏は話す。

「執筆当時、将棋界では絶対に塗り替えられないだろうという記録が二つありました。神谷広志先生の28連勝と、屋敷伸之先生の最年少タイトル獲得の二つです。この二つを破らせてしまうといかにもうそくさいので、史上最年少でタイトルを獲得したものの勝率は良くない主人公、という設定にしました」

 ところが、藤井竜王がフィクションのお株を奪う“主人公ぶり”で将棋棋士の世界に大きな影響を与えている。

 藤井竜王は2016年に史上最年少(14歳2カ月)で四段昇格を果たしてプロ棋士の仲間入りをした後、そのまま公式戦で29連勝の連勝記録を樹立。さらに、史上最年少(17歳11カ月)で棋聖のタイトルを獲得した。

「藤井先生はプロデビューからすべての対局が中継されていて、対戦相手から分析される環境にありました。それでも勝ち続けたというのは、客観的に見ても完成された強さを備えていたのだと思います」

 連勝記録が途切れた後も、藤井竜王の快進撃は止まらない。『りゅうおうのおしごと!』の展開よりもはるかに速いスピードで、藤井竜王がタイトルを獲得していくため、白鳥氏は頭を抱えているという。

「藤井先生は、2021年9月の叡王奪取から22年2月の王将奪取まで、半年の間にタイトルを三つ獲得しています。『りゅうおうのおしごと!』は、半年に1冊ほどのペースで刊行していたのですが、1巻分で主人公に三つタイトルを獲得させるわけにもいきませんし、当時は作品の展開にかなり悩みました」