賃貸物件の内覧などに訪れた際、「何となく気に入った」「何かが違う」と、曖昧な要因で好き嫌いが分かれた経験がある人は多いだろう。実は、この明文化が難しい部分にこそ、不動産事業者の実力が顕著に表れる。照明、香り、音楽、床の硬さ――。そうした要素の組み合わせが消費者の五感に訴えかけ、印象を左右するからだ。そこで今回は、不動産事業者と一般消費者の両方に向けて、物件選びにおける「何となく」の正体と生み出し方を伝授する。(スタイルアクト(株)代表取締役/不動産コンサルタント 沖 有人)
物件選びにおける
「何となく」の正体とは?
不動産の価値を高めるには、「立地条件の良い場所に建てる」「空室を作らない」「定期的にリフォームを行う」など、いくつかの実証された方法がある。
だが実は、上記の他にも細かなノウハウが存在する。いずれも難しいものではないが、不動産業界ではあまり明文化されていない印象だ。
筆者は不動産事業者に対してコンサルティングをする立場にあるが、不動産業界は明文化が不得意だからこそ、コンサルティングビジネスが成立するのだろう。
そこで今回のコラムでは、これまで業界内で明文化されてこなかったノウハウを、筆者流にアレンジしたものを紹介する。
いずれも、消費者が商品を購入するまでの心理的変化を説明する「AIDMA(アイドマ)」「AISAS(アイサス)」といったモデルを応用したものだ。
もしあなたが不動産の運用管理を手掛けていたり、自宅の売却を考えていたりする場合は、後述するエッセンスをぜひ参考にしてみてほしい。商談などの失敗を未然に減らし、成約率を上げることができるだろう。
一方、あなたが一般消費者である場合は、賃貸物件の内覧などに訪れた際、「何となく気に入った」と思った経験があるだろう。その裏側で、不動産会社や売り主がどんな「仕掛け」を講じていたのか、そのからくりを学んでほしい。
では、早速お伝えしていこう。キーワードは以下の2つだ。
・「気に入るかは最初の2秒で決まる」
・「高級感は五感に訴える」
不動産の内覧において、顧客の行動は雄弁に物を語る。
外観を一瞥しただけで、「この物件は見ない」と言いだした。吹き抜けのエントランスの壮大さに圧倒され、思わず見上げて「うわー」と感嘆し、部屋を見る前に気に入った。そんな話は多い。
これらの事例に共通しているのは、意思決定のスピードが一瞬であることだ。だから今回は、「気に入るかは最初の2秒で決まる」と強調しておく。