体を動かすことは健康を保つために重要なのですが、「運動は年中しているよ!」という人にも、一つ注意点がある!と健康になる技術 大全の著者、林英恵さんは言います。
「ここまでデータに基づいて書かれた健康習慣本は他にない」(統計家・西内啓)と評され、話題となっている『健康になる技術 大全』。本書の著者、林英恵さんが語る「健康になる技術」とは、健康でいるために必要なことを実践するスキルです。本連載では、「食事」「運動」「習慣」「ストレス」「睡眠」「感情」「認知」のテーマで、現在の最新のエビデンスに基づいた健康に関する情報を集め、最新の健康になるための技術をまとめていきます。今回は、「運動している人の盲点」についてです。(写真/榊智朗)
監修:イチローカワチ(ハーバード公衆衛生大学院教授 元学部長)

運動していても死亡リスクが上がってしまう人の特徴とは?Photo: Adobe Stock

運動していても座りっぱなしだと死亡リスクが高まる

 穏やかな気持ちのいい、運動をするのにもってこいの季節になってきました。体を動かすことは健康を保つために重要なのですが、「運動は年中しているよ!」という人にも、一つ注意点があります。それは、座っている時間です。

 最近の研究では、座っている時間が長いと、様々な病気のリスクや、死亡の危険性を増やすことがわかっています(*1,2)。例えば座っている時間とテレビを見る時間と、特に糖尿病や循環器系の疾患のリスクには関連があります(*2,3)。

1日の運動時間が5分以下で、8時間以上座っている人は、約60%死亡リスクが上昇する

 まだメカニズムははっきりとは解明されていませんが、一説には、座っているよりも、立ったり歩いたりする方が、代謝や血管機能を正常に保てるからともいわれています(*30)。

 一番良いのは、体をよく動かしている人で、座っている時間も短い人。一方、週の身体活動量が多い人(週35・5メッツ)であっても、座っている時間が長い(1日8時間以上)場合、死亡リスクが10%増えることがわかっています(*3)。

 1日の運動時間が5分以下で、8時間以上座っている人は、一番活動的な人たちに比べて、約60%死亡リスクが上昇する傾向が見られました。

1分でもいいから、座る時間をいかに短くできるか

 こんな研究結果を受けてか、私が博士課程にいた2013年頃から、ハーバード大学の研究室や図書館でも、スタンディングデスクといわれる、立ったまま作業をするための机が設置されました。はじめから立って作業を行えるような机もありますが、座って作業ができる普通の机に台を設置して、立っても座っても使用できるように高さの調整ができるものもあります。

 立ってする作業では集中できないという人や、立ちっぱなしだと足腰が痛くなってしまう人は、トイレ休憩の際に気分転換を兼ねて少し遠いトイレまで足を運んだりするのも1つの方法かもしれません。

 家では、家事などの立ち仕事が要求されて、なおかつ部屋もきれいになるような掃除・炊事・洗濯は、一石二鳥です。

 また電車の中では意識して立つなど、自分に合った方法で、どうしたら、1分でも座る時間を短くできるか、考えてみてください。

【参考文献】

*1 World Health Organization. WHO guidelines on physical activity and sedentary behaviour. More Physical activity; 2020.
*2 Patterson R, McNamara E, Tainio M, Sá THd, Smith AD, Sharp SJ, et al. Sedentary behaviour and risk of all-cause, cardiovascular and cancer mortality, and incident type 2 diabetes: a systematic review and dose response meta-analysis. Eur J Epidemiol. 2018;33(9):811-29.
*3 Ekelund U, Steene-Johannessen J, Brown WJ, Fagerland MW, Owen N, Powell KE, et al. Does physical activity attenuate, or even eliminate, the detrimental association of sitting time with mortality? A harmonised meta-analysis of data from more than 1 million men and women. Lancet. 2016;388(10051):1302- 10.

(本原稿は、林英恵著『健康になる技術 大全』から一部抜粋・修正して構成したものです)

運動していても死亡リスクが上がってしまう人の特徴とは?林 英恵(はやし・はなえ)
パブリックヘルスストラテジスト・公衆衛生学者(行動科学・ヘルスコミュニケーション・社会疫学)、Down to Earth 株式会社代表取締役、慶應義塾大学グローバルリサーチインスティテュート特任准教授、東京大学・東京医科歯科大学非常勤講師
1979年千葉県生まれ。2004年早稲田大学社会科学部卒業、2006年ボストン大学教育大学院修士課程修了、2012年ハーバード大学公衆衛生大学院修士課程を経て、2016年同大学院社会行動科学部にて博士号取得(Doctor of Science:科学博士・同学部の博士号取得は日本人女性初)。専門は、行動科学・ヘルスコミュニケーション、および社会疫学。一人でも多くの人が与えられた寿命を幸せに全うできる社会を作ることが使命。様々な国で健康づくりに携わる中で、多くの人たちが、健康法は知っていても習慣づける方法を知らないため、やめたい悪習慣をたちきり、身につけたい健康法を実践することができないことを痛感する。長きにわたって頼りになる「健康習慣の身につけ方」を科学的に説いた日本人向けの本を書きたいと思い、『健康になる技術 大全」を執筆した。
2007年から2020年まで、外資系広告会社であるマッキャンヘルスで戦略プランナーとして本社ニューヨーク・ロンドン・東京にて勤務。ニューヨークでの勤務中に博士号を取得。東京ではパブリックヘルス部門を立ち上げ、マッキャンパブリックヘルス・アジアパシフィックディレクターとして勤務後、独立。2020年、Down to Earth(ダウン トゥー アース)株式会社を設立。社名は英語で「実践的な、親しみやすい」という意味で、学問と実践の世界を繋ぐことを意図している。現在は、国際機関や国、自治体、企業などに対し、健康に関する戦略・事業開発、コンサルティングを行い、学術研究なども行っている。加えて、個人の行動変容をサポートするためのライフスタイルブランドの設立準備中。2018年、アメリカのジョン・ロックフェラー3世が設立したアジアソサエティ(本部・ニューヨーク)が選ぶ、アジア太平洋地域のヤングリーダー“Asia 21 Young Leaders”に選出。また、2020年、アメリカのアイゼンハワー元大統領によるアイゼンハワー財団(本部・フィラデルフィア)が手がける、世界の女性リーダー“Global Women’s Leadership Fellow”に唯一の日本人として選ばれる。両組織において、現在もフェローとして国際的な活動を続ける。
『命の格差は止められるか ハーバード日本人教授の、世界が注目する授業』(小学館)をプロデュース。著書に、『健康になる技術 大全」(ダイヤモンド社)、『それでもあきらめない ハーバードが私に教えてくれたこと』(あさ出版)がある。
https://hanahayashi.com/