「この本は、まちがいなく買いだ」。竹内薫氏絶賛の1冊僕たちは、宇宙のことぜんぜんわからない。本書は、「宇宙は何でできてるの?」「ビッグバンの時には何が起こったの?」「ダークマターって何?」「宇宙で僕らはひとりぼっちなの?」……こんな「まだ解かれていない宇宙の謎」を解説する「世界一わかりやすくて面白い宇宙入門」だ。本連載では、本書の一部から抜粋して、わかりやすい宇宙の話をお伝えする。

僕たちは、宇宙のことぜんぜんわからないPhoto: Adobe Stock

疑問:誰でも同じふうに時間を感じるの?

 20世紀に入るまで、時間は誰にとっても共通だと考えられていた。

 すべての人、宇宙のすべてのものが、時間を同じふうに感じるということだ。同じ時計を2個、宇宙の別々の場所に置いたら、永遠に同じ時間を刻みつづけるとされていた。

 何しろ、日々の経験ではその通りなんだから。もし1人1人の時計が違う速さで進んでいたら、世の中めちゃくちゃだ!

 でもその後、アルベルト・アインシュタインの相対性理論が登場して、空間と時間が時空という1つの概念にまとめられると、すべてがひっくり返った。

 アインシュタインは、運動している時計のほうがゆっくり時を刻むと予言した。有名な話だ。

 光の速さに近いスピードで近くの星まで旅したら、地球に残していった人に比べて経験する時間は短くなる。

 だからといって、『マトリックス』みたいに時間をゆっくり感じるわけじゃない。

 地球に残っている人の時計で時間を計ると、旅している時計よりも長い時間が過ぎたと計られるということだ。

 誰でも同じように時間を経験するけれど(1秒あたり1秒というふつうのペースで)、お互いに速いスピードで動いていると時計の進み方が違ってくるのだ。

光より速いものはない

 スイスのどこかで、ある時計職人がそれを聞いてぶっ倒れたらしい。

 同じ時計が違うスピードで進むなんてぜんぜん理屈に合わないように思うけれど、実際にこの宇宙はそういうところなんだ。

 それは日常生活の中でもわかる。携帯(とか車とか飛行機)のGPS受信機よりも、地球のまわりを回るGPS衛星(地球の巨大な質量でゆがんだ空間の中を時速数万キロで飛んでいる)のほうが、時間がゆっくり進んでいるのだ。

 その違いを計算に入れないと、衛星からの信号と正確に同期させて君の位置を測ることはできない。

 宇宙は論理的な法則に従っているけれど、その法則は君の思っている通りとは限らないのだ。その真犯人は、宇宙の制限速度、つまり光の速さだ。

 アインシュタインの相対性理論によると、どんなものも、情報やアツアツの宅配ピザでさえ、光の速さより速く移動することはできない。

 この厳しい制限速度(時間あたりの距離)のせいでいろいろ不思議なことが起こって、僕らの思っている時間の概念は崩れてしまうのだ。

 まず、この速度制限がどういうふうに効いてくるのか、しっかり理解しておこう。

 いちばん大事なルールとして、誰がどんな立場から何のスピードを測っても、この制限速度は守られていないといけない。

「光の速さより速く動いているものは1つも見つからない」というのは、どんな立場から見ても絶対に見つからないという意味だ。

 そこで1つ単純な思考実験をしてみよう。ソファーに座っている君が懐中電灯を点ける。君にとって、懐中電灯から出た光は光の速さで進んでいく。

 でも、そのソファーがロケットの先端にくくりつけられていて、そのロケットが発射してものすごいスピードで飛びはじめたら?

 それで懐中電灯を点けたらどうなるだろう? ロケットの飛んでいく方向に懐中電灯を向けたら、その光は(光の速さ)+(ロケットの速さ)で進んでいくんじゃないの?

光より速いものはあるか

 この懐中電灯から出た光は、誰が見ても(ロケットに乗っている君が見ても、地球にいるみんなが見ても)光の速さで進んでいくように見えるのだ。

 だとすると、その代わりに何か違っているものがあるはずだ。それが時間なのだ。

 どういうことか理解するためには、時間を時空の4つめの次元として考えるといい。

 そうすると、宇宙の制限速度は時間と空間両方の中での合計スピードに適用されることがわかる。

 地球上のソファーに座っていると、空間の中でのスピード(地球に対する速度)はゼロなので、時間の中でのスピードがかなり速くなっても制限速度には引っかからない。

宇宙と時間

 でも、地球に対して光の速さに近いスピードで飛んでいるロケットに乗っていたら、空間の中でのスピードはすごく速くなる。

 すると、時空の中での合計スピード(地球に対する)を宇宙の制限速度以下に抑えるためには、時間の中でのスピード(地球上に置いてある時計で計る)を下げるしかない。

宇宙と時間

 ついてきてる?

 人によって時間の進み方が違うなんて考えると、頭がぐちゃぐちゃになるかもしれない。でもこの宇宙はそういうものだ。

 さらに不思議なことに、どういう順番で出来事が起こったか、それさえも人によって言うことが違う場合がある。

 もちろん誰もウソなんてついていない。たとえば、2人の正直者がそれぞれ違うスピードで動いていると、自動車レースで誰が勝ったかで話が食い違ってくることもあるのだ。

 君が飼っているラマとフェレットを競走させたとしよう。

 君がどのくらいのスピードで動いているか、そしてどこから見ているかによって、愛しいペットのどっちが勝つのを目撃するかが違ってくる。

 2匹のペットもそれぞれ違う結果を経験するし、光の速さに近いスピードで飛び回れるおばあさんなら、さらに違う結果を目撃する。しかもみんな正しいのだ!(ただしスタートが切られた時間も食い違ってくる)。

宇宙と時間

宇宙にはある意味「正確な時計」が存在しない

 人によって時間をそれぞれ違うふうに経験するなんて、なかなか受け入れられない。宇宙には絶対に正しい歴史は1つしかないって思いたい。

 いままで宇宙で起こったすべての出来事を、理屈の上では誰かがたった1つの物語(ものすごく長くて超退屈だけれど)に綴ってくれてもいいはずだ。

 もしそんな物語があったら、誰でも自分の経験をそれと照らし合わせることができる。

 勘違いとかメガネが曇っていたとかじゃなければ、みんなが見たことはその物語と一致するだろう。

 でもアインシュタインの相対性理論によると、すべては相対的だ。宇宙の出来事の記録でさえ、誰が記録したかで違ってきてしまうのだ。

 宇宙にたった1つだけある絶対的な時計、それが時間であるという考え方は、結局あきらめるしかない。

 確かに、直感的にぜんぜん理屈が通らなくなることもある。でも驚くことに、時間がそういうものだというのは実験で確かめられていて、正しいことが証明されているのだ。

 物理学のいろんな大革命のときと同じように、自分の直感は切り捨てるしかない。そして、自分自身の経験に左右されない数学を道案内に進んでいかないといけないのだ。