香港でどら焼きが売れに売れている。たこ焼きチェーン「築地銀だこ」で知られるホットランドが2007年7月に香港に出店したどら焼き専門店「桜みち」2店舗が、予想をはるかに上回る売り上げを記録しているのだ。

 その最大の要因は、「何といってもドラえもんのおかげ」(ホットランド社長・佐瀬守男氏)。ドラえもんは、米誌『タイム』が「アジアのヒーロー」として日本のトップに挙げたほど、アジアでは絶大な人気を誇る。各国でドラえもんのテレビアニメが放映されているほか、香港ではアニメ映画も盛んに上映されている。

 このため、「ドラえもんの大好物は、どら焼き」ということはだれでも知っているが、実際に食べたことのある人はほとんどいなかった。そこにどら焼き専門店が登場したということで、若者や子供たちを中心に客が殺到した。

 「桜みち」のどら焼きは、どら焼きの皮の上にあんこを乗せたもののほか、生クリームとイチゴ、チョコレートクリームとバナナなどケーキ風のメニューが豊富なことも、香港の人たちに受けたようだ。

 香港での来店客数は日本の3倍以上の1店舗当たり1日600~800人。じつは1品単価も日本円で平均210円と国内より30円程度高く設定しているのだが、「日本のものは高級だというイメージがあるので、値段を気にする人はいない」(佐瀬社長)という。

 2店舗とも繁華街の商業施設の中に出店しているので、家賃は日本の大都市並みに高いが、現地従業員の人件費は安い。さらに、小豆以外の材料は現地で調達しており、原材料コストも低い。売り上げだけでなく、利幅も大きいとあって、笑いが止まらない状況だ。

 ホットランドではタイのバンコクに「築地銀だこ」を出店しているのだが、単価が500円で1日平均1000食が売れるほど、こちらも絶好調。「海外の日本食店といえば、寿司など高級店がほとんどで、現地の一般の人たちを相手に庶民の味を提供する店はなかった」と佐瀬社長。

 今後は、10月に上海に「築地銀だこ」の中国1号店を出すなど、海外展開を強化する方針。それに備えて、海外向けの新業態も開発した。それが、かりかりに焼いたタイ焼きの皮の中に、粗挽きウインナーとトマトソース、ベーコンとチーズなどを詰め込んだホットサンドイッチ風の「THE TAIYAKI」。9月15日に香港で1号店を出したほか、英国への出店も計画している。

 ホットランドのグループ年商は現在250億円。主力の「築地銀だこ」は約300店だが、国内では500店までが限界と見ている。一方で、海外店舗は全業態合わせてまだ11店舗。庶民の味を引っさげて、海外での勝負にグループの将来をかける意気込みだ。

(『週刊ダイヤモンド』委嘱記者 田原寛)