5月のFOMC(米連邦公開市場委員会)でFRB(米連邦準備制度理事会)は、利上げ停止の可能性を示唆した。しかし、賃金の伸びに鈍化の兆しはいまだ見えない。サービス価格中心に夏場以降、インフレ再燃、利上げ再開のリスクがくすぶる。(みずほリサーチ&テクノロジーズ調査部プリンシパル 小野 亮)
投資は大きく減速も好調な個人
消費が米国経済をけん引
5月3日、FOMC(米連邦公開市場委員会)後の記者会見で、パウエルFRB(米連邦準備制度理事会)議長は、米国経済の先行きについて従来の見方を崩していないことを強調した。景気後退なきソフトランディングと、2%へのインフレ沈静化の両立である。
少なくともこれまでのところは、パウエル議長のシナリオに分がある。昨年後半以降を振り返ると、急速かつ大幅な引き締めにもかかわらず、米国経済は拡大を続けており、雇用は伸び続けている。一方、インフレ率にはピーク越えの動きが見られるようになった。
まず経済活動を見てみると、23年1~3月期の実質GDP(国内総生産)成長率は前期比年率1.1%に減速したが、在庫減少の影響が大きく、国内最終需要は同3.2%と前期から大幅に増加した。
企業の投資活動は大きく減速したが、家計が「元気」で個人消費がけん引役となった。利上げが直撃した住宅投資すら落ち込みが大きく和らいでいる。
前年比10%を超える米株価の下落や、1年で5%近い急速かつ大幅な利上げに直面してもいまだ消費が崩れず、景気後退が起きないのは、過去50年を振り返っても異例といえる。
米家計が見せる異例の強さは、財務の健全性と、深刻な人手不足が生み出しているとみられる。
米家計の財務の健全性は、可処分所得に占める金融的負担の割合が歴史的に見ても低い水準にとどまっていることに表れている。
住宅ローンやクレジットカードローンなどの返済額と、自動車リースの負担額や家賃などを合わせた額が可処分所得に占める割合を見た「金融返済負担率」は、昨年10~12月期時点で14.4%である。
これは、統計を取り始めた1980年以降では、消費活動が制約されたコロナ禍の時期を除くと、最も低い水準に近い。
これは米家計の消費が、利上げに対して脆弱(ぜいじゃく)な「債務主導型」ではないことを示している。
実際、堅調な消費を支えるのは、バイデン政権による寛大な給付金やコロナ禍による強制貯蓄によって積み上がった数兆ドルの現金等と、人手不足を背景にした雇用拡大と賃金の高い伸び(=雇用者報酬の高い伸び)である。インフレを加味した米家計の実質雇用者報酬(付加給付を除く)の伸びは3月時点で前年比2.9%に達する。
個人消費の好調が続く中、インフレはどうなるのか。FRBの金融政策の動向とともに次ページ以降検証していく。